第三話 白雪姫
「お待たせしました」
「あ、天羽さんおかえりー」
他生徒の騒ぎにならぬよう体育館の裏口から入り、式が開始されてすぐの舞台袖に辿り着くなり、椅子に座った
その浮かべる笑みはへらへらとしていて、私を一切労うつもりがないのは分かりきっている。寧ろ、自分に厄介ごとが回されなくてラッキーとさえ思っているに違いない。
呑気なものだ。
その着崩した制服も、何度言っても一学年上の私に対して敬語を使わないことも。
「…あれ?もしかしてその抱えてる子が新入生代表の子?」
「ええ、そうです」
「わー…なんて言うか、うん…」
まるで、白雪姫みたいだ。
目敏く絡みに来た聖は、そう言いたいのだろう。お前は御伽噺でもしているのか、と笑って言ってやりたいが、聖がそう言いたい気持ちが分からなくもない。
予定通りに行われる夜鷹による式辞が終わり、すれ違うように私は新入生代表を抱えたままステージの壇上に向かう。すれ違い様に見えた夜鷹の顔は珍しく驚いた表情をしていて、写真で撮って本人に見せてやりたいぐらい傑作だった。
「――きゃあああぁ!!」
「天羽様ーーー!!」
ステージの壇上に上がった私の姿を捉えた瞬間に上がる、耳障りな甲高い歓声にはもう慣れた。いや、慣れざる終えなかったと表現した方が正しい。流石に、三年間も聞かされ続ければ自然と耳に馴染む。
だが、その歓声は暫くして騒めきに変わる。
その騒めきに、つい私の口角は笑みを耐えきれず上がった。騒めく生徒の注目を集めているのは私では無く、私の腕の中で眠る新入生代表だ。そうだ、それでいい。ただまだ足りない。もっと観衆の注目を集めるには、彼に起きてもらわなければならない。
「さあ、お目覚めの時間です。起きてください」
囁くように新入生代表の耳朶に顔を寄せ、軽く揺り籠のように腕を揺さぶる。少し間を置いて、んんと掠れた声がして、腕の中から今まで眠っていた人物がゆっくりと顔を上げた。
「…――っ」
その瞬間、騒めきが残っていた体育館は完全に静寂に包まれた。
――ああ、これだ、と私は心の底から歓喜に打ち震える。
私が待ち侘びていたのは
まだ完全に起きていない男に微笑むと、私は少し癖のある散らばる黒髪にすっ、と指を通す。まるで、白雪姫のようだ――と具現化したその黒髪は柔らかく、指の間をさらさらと流れる。その感覚が面白く癖になり、気付けば何度も何度も男の髪を指で梳いていた。流石にこれ程、べたべたと触れられれば新入生代表も起きるだろう。
だが――
私ががこれだけ触っても、彼は起きる気配がない。
「…これでは本当に白雪姫のようだ」
私はとうとう本格的に彼に触れる。
伸ばした手は止まらなかった。
そっと伸ばした手で、うっすらと目尻の下に触れる。雪色の肌は皮膚が薄いのか、それだけで白い肌が赤く色付く。指の腹ですりすりと撫で上げると、ぴくりと睫毛が震えた。
んん、と言う小さな声が彼の唇から漏れ、赤く熟した林檎のような魅惑的な唇が開き視線が奪われる。そのまま自然と目が向かうのは、何個か外されたシャツの襟から覗く、白い肌。その下に隠された身体は瑞々しく清らかに違いない。
その肌に手を這わせ、華奢な体を暴けば彼がどんな反応をするのかが気になった。
そんな欲望を抑え込みながら、ぼうっと私を腕の中から見上げる彼の耳朶に顔を寄せ、今が入学式中であり今が彼の出番であることを説明する。
「目覚めたばかりでお辛いでしょうが、お願いします」
「…うん、だいじょうぶ。えっと…」
「
「あもう…天羽、ありがとう」
今度はどこぞの誰かと私を勘違いされず、私の名前をその唇から紡がれたことに私は興奮を制御しきれなかった。
いつも周りにいる人間は貼り付けた笑顔で私を褒め、顔色を伺うばかりの人間や腹芸ばかりの狸しかいない。だが、どうだ。腕の中の彼のどこか幼い口調は純粋で、お礼を言われた相手が私に向けられたものだと背徳感さえ感じた。
利用するだけの存在だと認識していたはずなのに、ここまで入れ込むなんて私もどうかしている。
そんな純心で無垢なままの体や血も心臓も、髪の毛や骨も全部残さず口付けを落とし、私だけのものにしたい。華奢な腰を抱きながら甘く耳元で囁く――何も考えず、私だけを感じていろと。
彼の意識は私で塗りつぶされ、彼の中で私がずっと生きる。私は腕の中にある彼を感じられて、彼は私を想いながら私の鼓動を感じられる。
ずっと離れることはない。永遠に一緒だ。
私が君に抱く感情はそれだ。
生徒会でも、私が生徒会から抜け
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