第四話 ひらりひらり
愛らしい薄桃の花を咲かせた木々の隙間から、ほろほろこぼれる穏やかな日差しを浴びながら、ひらりひらり目の前を揺蕩う花びらをそっと掌に載せて眺める。辺りは静けさに包まれて、俺の他に人の気配はない。あるのは、春の訪れた暖かい春風だけだ。
人が居ないことをいいことに、俺は窮屈な首元のループタイを取り払って喉元のボタンを外した。解放されて涼しくなった喉を春風が撫で、目を細める。
暖かな陽気に春の誘われて、ふらふらと校門をくぐるとすぐ傍にちょうどいい噴水があった。
噴水を囲む石壁に座ると、瞼が自然と重くなっていく。
「――すこしぐらい、いいかな」
ぽつりと呟いた言葉は、優しく吹き抜けた春風と共に溶けて消えた。
「――っ、大丈夫ですか?」
「…――?」
腕を強く引っ張られた感覚と一緒に、意識が引き上げられて俺はうっすらと重たい瞼を開けた。誰だろう。覚醒仕切らない頭では、相手の顔はぼんやりとしていて輪郭が捉えられない。
ああ、でも確か家を出る前に
「……ちかげ」
きっと、迎えに来てくれたのは千景だ。千景は俺が迷子の時、必ず俺を見つけ出してくれる。
安心感ととろりと微睡む意識に思考はぼんやりと薄れ、そのまま俺は千景に凭れ掛かるようにして再び瞼を閉じた。
千景は俺を抱えると歩き出す。歩く度に身体は揺れ、その振動が心地よく揺り籠のようだった。
そして俺は、生まれ育って初めて、校舎に足を踏み入れた。
そう言えば、瞼が閉じる前に見えたローズグレーの髪。
あの髪色の持ち主は一体誰だったんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます