4章 黒い森

第13話 森の中へ

 盗賊のアジトから歩くこと半日程度、ムートとヒナは、昼前には森の入り口まで来ていた。森は鬱蒼としていて、とても奥まで見渡すことはできなかった。

 鳥が奥でギイギイと声を上げている。一体何の声だろうか?

 思わずヒナの手がギュッとムートを掴む。

「なんだ? 怖いのか?」

「少しだけ」

「大丈夫、オレもだ」

 ムートはガッハッハと笑いながら一歩目を踏み出した。そして、二歩目、三歩目と続く。ヒナもそれに続いた。リスだの小鳥だのの小動物も生息していることから、多少は安全かもしれないとわかると、ヒナは少し安心した様子だった。

 しかし、それは入口辺りだけのことだった。奥に行けば行くほど、モンスターが出てきたのだった。

「弱いモンスターが多いけど、数が多いな」

「ムートが強すぎるだけじゃないのかしら?」

 ムートは「うーん」と考え、一言で返した。

「ちげえねえや」

 笑いながら奥へと進む。進みながらもムートは考える。このモンスターの数、何かこの森に異常事態が起こる予兆なのだろうか?

「もしくは、もう起こっているとか?」

 ムートはかぶりを振るう。

「考えすぎだな」

 ムートは十匹目の森ゴブリンを倒し、剣に付着した血を払って先を急ぐ。ヒナもその後に一生懸命ついてくる。

 ムートは少しだけペースを落とし、森の奥へと進んでいった。


 太陽は一番高い位置に座していた。もうお昼ごはんの時間だった。

「ヒナ、もうちょっとがんばれな。エルフの家はきっともうすぐだ」

 ヒナが「わかったわ」と言うのとほぼ同時だった。ムートたちは森の中にあるエルフの住む小屋へと辿り着いたのだった。

 しかし小屋は惨憺たる有様だった。焦げたところ、壁が崩れているところ。そして家の前には……。

「おい、アンタ!」

 エルフの男性が倒れていた。

「しっかりしろ! 何があった!」

 ムートはエルフを軽く揺すり、そして肩を叩き起こそうとする。しかしエルフは起きなかった。

「気絶しているだけっぽいな。ヒナ! 回復魔法を頼めるか?」

 ヒナは一瞬たじろいだが、すぐに我にかえりエルフの胸に手を当て、回復魔法を唱えた。

「一体誰がこんなことを……」

 すると、後方から森ゴブリンが二匹現れた。

「ギャッギャッ」

 青い森ゴブリンは赤い森ゴブリンに指示を出し、ムートに襲いかからせた。

 赤い森ゴブリンはムートに一撃でやられ、青い森ゴブリンは木製の盾と棍棒を持ち戦闘の準備をする。

 そしてムートは上段からモリゴブリンへ一撃を放つ。森ゴブリンは放たれた一撃を盾で防御し、棍棒の一撃を喰らわせようとする。

 しかしムートの一撃は、盾ごと森ゴブリンを切り裂いた。

 ムートは剣についた血を払い、ヒナの元へと戻る。

「ヒナ! エルフは?」

「回復魔法は終わったわ。手応えもあった。しばらくすればこの人も気づくわ」

 ムートは少しホッとする。せっかくの手がかりだ。また無くすのはいかがなモノだし、アマレも言っていた。「人助けも勇者の仕事よ!」

 すると、家の中で何か音がした。

「「!」」

 ムートとヒナは身構える。出てきたものそれは……!

「あれ?」

 本を持ったプルス族の男だった。

「黒い鎧……オーラを纏った剣……」

 その男は確かにそれらを身につけていた。

「おお、ムートじゃないか久しぶりだな」

「ヒモスー!」

 ムートはヒモスと呼んだプルス族の男に斬りかかった!

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