第11話 さよならヒナ
夜も遅くなり、双月も一番高いところに座していた。泣きつかれたヒナは、ようやく寝ついたようだった。
「ゴメンなヒナ」
窓を閉める前にムートは一旦外を見る。
「なんだアレ?」
夜目のきくムートが見つけたのは、なにやらうごめいている集団だった。
集まってきた集団は三十人ほどとなり、教会を取り囲んだ。
そして、一番大きな出入り口に鉄の棍で開かないようカギをした。
「何やって……そういうことか!」
ムートがレザーアーマーを身につけるのと同時に、そいつらは教会に火をつけた。
「ヒナ、起きろ! 付け火だ!」
ヒナを叩き起こすと、ムートは扉を開け叫んだ。
「付け火だ! 燃えているぞ!」
その言葉を聞いて教会の火事を確認した人々は、半狂乱になりながら、出入り口である大きな扉に集まっていく。
「開かないぞ」
「何でだよう!」
「開けてー! 出してー!」
教会にいた多くは子どもだった。この教会は孤児院の役割が大きかったようだ。
「落ち着きなさい!」
「神父様」
「扉が開かないんです!」
「かしなさい」
神父は扉を力づくで開けようとする。
「外から抑えられている」
ムートの声に神父たちは振り向く。
「ではどうしたら?」
「任せろ」
神父たちを下がらせたあと、ムートはホール内でライトニングブレイブを呼び出して乗り込む。
「壁を破壊する! 下がってろ!」
ムートはライトニングブレイブを体当たりさせ、壁に大きな穴を開けた。
「助かったぁ」
と思ったのも束の間、先ほどの三十人が神父たちを取り囲んだ。そしてその背後には、エクスアーマー「ザルト」が控えていた。
ムート一人ならこの状況でも突破できるだろう。しかし神父や、ヒナが人質に取られている。ここは下手に動くわけにはいかない。
「まずは、その青いエクスアーマーから降りるんだ」
ムートはライトニングブレイブの起動キーを外し、ハッチを開け外へ出た。
「なんだ、ガキか」
ザルトの乗り手、おそらくこの盗賊団の頭だろう。ソイツは盗賊の内十人に指示を出した。
「そのガキを反抗できないよう叩いとけ」
「ガキじゃねえ! オレはプルス族の! げふ! まだセリフの途中! ガハッ! ヤロウ、ぶっ潰して!」
エクスアーマーザルトはハンマーを振り上げる。それを見たムートは抵抗することもできず、ただ盗賊にボコボコにやられるのだった。
「よぉし、ソイツらを荷馬車に突っ込め」
指示を受けた盗賊どもはキビキビと働き、ヒナや神父、子どもたち、そしてムートを荷馬車へと詰め込むと、急ぎ教会を後にした。
「ヘッ、楽な仕事だったな」
盗賊がそう口にするほど、スムーズに教会の皆は誘拐されたのだった。
しばらくして荷馬車はどこかの洞窟前に辿り着いた。どうやらそこが盗賊どものアジトらしかった。
人身売買をしているのだろうか? 洞窟の奥からはすすり泣くような声が聞こえてくる。
そしてムートたちは洞窟の奥にあった暗く臭い牢屋の中へと入れられた。
「ムート大丈夫?」
ムートはヒナに返事をしない。というより出来なかった。それほどまでに痛めつけられていた。体が小さいということはここまでのハンデだった。
「いま、わたしが治してあげる」
ヒナはムートの胸にそっと手を当てる。
「大地の精霊よ、この者に今一度健全なる肉体を与えたまえ」
呪文の詠唱が終わると、ヒナの掌が輝いた。光は広がっていき、ムートの体をやさしく包む。
「神父様ぁ」
「よく見ておきなさい。これが回復魔法です」
ヒナが手を離すと、ムートは目を覚ました。
「ん……なんだ? そうだ、オレは盗賊にセリフの途中でボコられて……」
「気がついたのね」
「ヒナ……」
ムートは起き上がる。
「なんとなく状況は掴めてきたぜ。ここは盗賊のアジトで神父さんが回復魔法かなんかで助けてくれたんだな?」
神父は「いえ」と否定の後つづけた。
「回復魔法をかけたのは、そこのヒナさんです」
「……そうか。まあ、とりあえず脱出しねえとな」
ムートは腕をぐるぐる回して準備運動をした後、鉄格子に手をかける。そして全身に魔力を行き渡らせ、鉄格子を簡単にひしゃげたのだった。
「よし、来たいヤツだけついて来い」
そしてムートは剣を抜こうと手をかける。
「アレ?」
「ムートが持ってたものは、全部盗賊が持っていったわ」
「マズイな……とりあえず、剣を取り返さないと」
ムートはまず牢の入り口にあたる場所で番をしていた三人の盗賊に襲いかかり、盗賊のサーベルを奪った。
「ムートさん一旦別れましょう」
「神父さん。アンタたちはどうするんだ?」
「奥で捕まっている方々を救出して脱出します。それまでに退路の確保をしておいてください」
ムートはニヤリ笑う。
「では頼みます」
そしてムートは後ろからついてくるヒナとともに、盗賊のアジト内を探索し始めた。
「ったく、人を利用するのが上手いんだよなあ」
「ホントね」
ムートは「お前もな」とどこかで思いつつ、ヒナを庇いながら盗賊どもと戦いつづけた。
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