episode.11

「全く、ここの政府は本当に面倒くさい事をしてくれましたよ」


 マルフェナが一歩、また一歩と部屋の奥へと進む。


「このような所に死徒を隠し、扉を開けるには杭がないといけないなんて……現存する杭などこの世に存在しないことをいい事に勝手なことを……まぁ、ですが時間はかかりましたが君たち二人が下僕に誘われて、ここまで来てくれたのですからいいとしましょう」

「お前……俺のこと知ってるのか?」

「僕のことを知ってるみたいだね」

「えぇえぇ、知ってますとも。君達がそれをどれほど知りたいって事もね」


 不気味に笑うマルフェナにマイケルが近づいていく。


「どうでもいいがマルフェナさん! 俺は言われた通りの事は全部やったからもう帰っていいんだろ? こんな所にずっといたら気が狂っちまう」

「そうですね……よくやってくれました。では……」

「え?」

「もう君はいりません」


 瞬時、マイケルの胴と首が切断される。

 それはあまりにも一瞬の出来事であり当のマイケルでさえ何が起こったか分かっていない。

 わかるのは自分の視界が今まで見たことがない角度で地面に落ちていっている事だけだ。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 響き渡るミッシェルの叫び声。


「やべぇぞあいつ! 逃げろっ!! うわっ! どうして野犬の群れがこんなところにいるんだっ!」


 男達が部屋から逃げ出そうとたが野犬の群れがそれを阻止する。


「おい、やるぞ!」

「了解! 喰」


 カルトの合図でブームが右掌をマルフェナに向ける。

 黒塊がマルフェナに向かい疾走し、それに次いでカルトの拳がマルフェナを襲う。


 はずであった。


「ぐえぇ……」

「どうして……」


 気が付くとカルトは腹を抑え倒れており、ブームの黒塊も消え失せていた。


「邪魔はしないでもらいたい。おいで、子供達よ」


 マルフェナがそう言うと足元から子供ほどの大きさをした異物が召喚される。


「さぁ、遊んでおいで!」


 異物は一斉にブームへ飛びついていく。

 一つ一つは大した戦闘力はない、が、次々と出てくる異物はいくら振り払っても切りが無い。


「さて、では、こちらの用事を済まさせていただこう」


 マルフェナは壁に磔になっている死徒へ振り返る。


「■■■■■■■■■■■■■■■」


 両の手を広げ、到底言語とは思えないような言葉を羅列してゆく。

 一つの杭に蒼い炎が点くのが見えた。

 その一つを皮切りに次々と杭に炎が点き始める。


「ミッシェル! 良い事を教えてやろう! 君の両親は死徒をこの屋敷の地下に隠すのを条件に大金を受け取った浅ましい者達だったのだよ! 自分達は戦いもせず! 信念もなく! 自分達が大金を得て楽に暮らせるからとこんな化物が地下にいる屋敷で暮らしていた! だから報いを受けたのだ!」


「そんな……そんな……」


「可笑しいとは思わんかね! 戦場で命を落とした者達に与えられるのはただの名誉のみ! それなのに貴様ら貴族は安全な場所で高みの見物をし事が終わりを迎えたら動かぬ死徒を預かるだけで大金を手にする! こんな馬鹿げた話がまことしやかに行われてるのだよ!」


 杭が燃え尽きる。

 身体を支えていた物がなくなった死徒はベチャリッと音を立てて床に落ちた。


ーズッ……


ーズッ……


 溶けかけている身体を引きずり向かっている先にある物は首のない胴体であった。


ーハラッ……ヘッ……


 胴体にたどり着くと流れ出る血を吸い始める。

 もはや口を開き肉を喰らう事も出来ぬほど死徒の身体は腐り果てていたのだ。


「急がなくても食い物は沢山ありますよ」


 野犬が首を噛み千切り息絶えた男達の死体を死徒の前に置き、自分達も周りにいる仲間の首を噛み千切り絶命する。


ーウマイ……美味い!


 今まで溶解していた身体がみるみるうちに再生してゆく。

 口が使えるようになり犬のように肉を喰らい、手が使えるようになり人のように喰らい、足が使えるようになり。

 狙いは生きている者に向けられた。


「元気になったようで何よりです。それでは私はこれで」


 マルフェナが立ち去ろうとした時、カルトが足を掴んだ。


「待てよ……俺のこと……教えろ……」

「君達がここで生き残れたらお教えしましょう。そうですね。明日の満月の晩、車で走ってみなさい。きっと私に辿り着きます」


 マルフェナはカルトの手を脚で払い階段へと向かう。


「クソがっ!」

「その異物も、もう消しときましょう」


 マルフェナが階段に足を掛け、指を鳴らすとブームを取り囲んでいた異物が一瞬にして全て消えた。


「僕は……誰なんだ!」


「それを教えるのも明日まで生き延びれたらです。それでは……さようなら」


 マルフェナの気色の悪い高笑いが部屋に響く。


「来ないでっ! 来ないでぇ!」


「我は、ルイガン、汝。ワシの血肉となる事を喜ぶのだな」


 ルイガンがミッシェルに手を伸ばす。


「クソッタレ……やっと手がかりを見つけたのによぉ……」

「生き延びればいいんだね」

「おい! 明日あいつボコボコにして全部聞くぞ!」

「そうだね。それがいい」

「そこのでけぇの! こっち向けや!」

「……何だ貴様らは?」

「よくぞ聞いてきたなこの野郎!」


カルトとブームは互いの背を付けルイガンに指を向ける。


「「そう! 俺達!」」


「「最最強強バのデ三ィ人ー衆ズで」」


「あーる!」


「惜しいっ! いや! 惜しくねぇ! え? 三人衆? どう見たって俺達二人じゃねぇかよっ!」


「そこは普通に間違えたごめん」


「素直かよっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る