episode.10

「お前らが先に行け。何があるかわからないからな」


 ブームとカルトに命令し地下室へ向かう階段を先導させる。

 後ろにはマイケル、その後ろにミッシェルと、ナイフを突きつけている男、最後尾には先程マイケルにやられていた男が数人で杭を担いでいる。

 地下室へ向かう階段には薄ぼんやりではあるが光が灯っている。

 一番下まで辿り着くと何もない部屋が一つぽつんと存在していた。

 異質なのはその中に一つだけある扉である。

 幾何学模様なのか、大人の目線の高さに一つ水晶が埋め込まれており、それ以外に開けられるような取手など一切ついていない。


「マルフェナの言っていた扉がこれか、おい、その杭でこの扉をぶち破れ」


 マイケルの言葉に男達が全員で杭を脇に抱え、扉へと向かう。


「おい! 大切な物だから壊すんじゃねぇぞ!」


 男達はこんな杭でこの頑丈そうな扉が開くとは思えなかった。

 大きさはあるが普通の木材を尖らせただけの代物にしか見えないからだ。

 勢いをつけ扉に突進をかけ、杭が扉に触れた瞬間。


 ーパリンッ


 と、軽い音が響き、扉についていた水晶が割れる。

 あくまで杭が当たったのは扉であり水晶になど触れていなかった。

 杭が当たった扉には傷一つ付かず、逆に杭が当たったところでビクともしない扉の反動で男達が杭を手放し後ろにひっくり返る。

 水晶がなくなったドアが小刻みに揺れ始める。

 どのような構造になっていたのか、扉は上にスライドされていき、奥の部屋が見えてくる。


「さぁ、奥へ行け」


 促されるまま足を運ぶカルトとブーム。


「ちっ、やっぱりか」

「これは大きいね」

「難なんだ! この化物は!」


 マイケルがそう叫んだのも無理はない。

 部屋の奥には生き物とは思えないほど溶解し、頭蓋骨が半分見えている異質な者が十はゆうに超える杭に打ち付けられていたのだ。

 部屋の中には動物が腐ったような臭いが充満し、その化物が張り付けられた足元にもなにかも分からぬ汁が一滴、また一滴と垂れている。


「違和感の正体はこれだったのかよ」

「普通の屋敷の地下にこんな死徒がいるなんて……何かおかしいな」


 カルトとブームが話を続けているがマイケルや男達は漂ってくる異臭と現実とは思えない光景を目の当たりにし、足をすくめる。


 その時だ。


「ようやく扉が開きましたか。待ちくたびれましたよ」


 何時のタイミングでここに来たのか、マルフェナが軽い口調で部屋の入口に身体を持たれかけさせながら立っていた。

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