episode.9
三人がデザートも食べ終わり談笑していた時である。
屋敷のドアが何度かノックされた。
「どなた?」
「僕だよ。マイケルだ。ミッシェル、さっきのことを謝りたいんだ。赤髪の方にも失礼なことを言ったからそちらにも話しをさせてもらいたい」
「もう夜遅いわ。明日では駄目かしら?」
「今がいいんだ。早く開けてくれ」
「でも」
「でもじゃない。開けてくれと言っているんだ」
ミッシェルはマイケルの言葉に違和感を覚えた。
「あなた、本当に謝りたいと思ってる? その割に口調がおかしい気がするけど」
「だからさっきから謝りたいと言っているだろう? 君は本当に人の話を聞かない節がある」
「悪いけど明日にしてもらうわ」
「面倒くさい女だ……おいっ、お前、ドアを蹴破れ」
ドア向こうから大きな打撃音が聞こえドアにミシッミシッとひびが入る。
「何をやっている! 早くしろ!」
二回、三回と回数を重ねるたびにドアの形は変形し、四度目にドアは破壊された。
「すげぇ音がしたけど、どうした?」
「……これは」
カルトとブームが玄関を覗くと尻餅をついているミッシェルのひしゃげたドアが倒れており、外にはマイケルと数人の方の汚らしい男達がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「……メシを食いに来た訳ではなさそうだな」
「そのようだね」
「お前ら二人ともそこを動くなよ? おい、ミッシェルを捕まえろ」
男の一人がミッシェルを引き寄せる。
「いやっ!」
「おい、いい加減にしろよ。遊びにしちゃあ、ちとやりすぎだ」
「人質をとるなんて何処までも汚い奴だね」
「動くなと言ったはずだ。おいまずはこの家を荒らせ。金目の物は壊さずに袋に詰めておけ。何処かにこの赤髪の杭があるはずだ。それも見つけておけ!」
男達が散り散りになり家の中のものを壊し、価値があるものは袋に詰めていく。
「止めて! 止めてよ!!」
「お前、ミッシェルの恋人だろうが! 愛した女の家に何やってんだボケナスッ!」
「はじめからこんな女に興味などないわ! 俺が欲しかったのはこいつの財産だけだ!」
「そんな! ひどいわっ!」
「ひどいのはどっちだ? たかが野犬程度で俺のことを侮辱して、俺はお前のような価値のない女と一ヶ月一緒にいてやったんだぞ? 親の財産を食いつぶしているだけの女となぁ!」
「てめぇ……いい加減にしねぇとぶっ飛ばすぞ?」
カルトの拳に力が入る。
「おぉっと! いいのかい? ミッシェルを捕まえている男は以前に仲間を何人も半殺しにしているイカレ野郎だぞ?」
「へっへっへ、腕の一本でも折っていいかい?」
男がヨダレを垂らしながらミッシェルの腕をさする。
「てんめぇ!」
「今は駄目だ」
ブームが一歩踏み出そうとしたカルトを声で抑える。
「くそっ……」
「いいねぇいいねぇ。悔しそうな顔だ。その顔が見たかったんだよ」
いつ破けてもおかしくないほど中身を詰め込んだ袋を持った男がマイケルに近づいてくる。
「粗方、金目の物は袋に詰めましたよ」
「よし、おいミッシェル。この家に地下室があるはずだ。入り口の場所はどこだ?」
「教えられないわ……地下室の入り口は絶対に人に教えるなと父に言われていたの」
「ふん、おい! お前ら地下室の入り口を探せ! 見つけた者には金を追加で払うぞ!」
男達が歓喜の声を上げ、一層激しく屋敷の中を荒らし始める。
「やめてっ! もうやめてよ!!」
「本当にお前は愚かな女だ」
「お前後で覚えておけよ!」
「そうだ。お前にも借りを返さないとな」
マイケルがカルトに近づいていく。
「おい、こいつが俺に一発でも攻撃したらミッシェルの喉元を掻っ切れ。わかったな?」
「あいよ」
ミッシェルを捕まえている男がポケットからナイフを取り出しミッシェルの喉に突き立てる。
「最低だなお前」
「うるさいっ!」
マイケルがカルトに向けて拳を振りかぶり、
一撃、また一撃と何度も顔面を殴り続ける。
「どうだ! 痛いか! 痛いだろう!」
「……痛くねぇ」
カルトの視線はマイケルからずっと離れない。
口からは血が垂れ始め、鼻からも多量の血が吹き出し始める。
十、二十、三十回とマイケルはカルトを殴り続けた。
どれだけ殴ってもカルトからの軽蔑の眼差しは消えない。
彼が見たかったのは一方的な暴力による服従だったはずなのに。
いくら殴ってもどれだけ暴言を浴びせても、まるで汚らわしいゴミを見ているような目がマイケルの心を掻き乱していく。
「はぁ……はぁ……ふざけ……やがって……」
「もう終わりかよ。全然痛くねぇ」
目まで赤くなっているカルトであったが瞬きを一切せずマイケルから視線は外さない。
その時、大型の何かが倒れる音が屋敷の中に響いた。
「見つけたぞ! 俺が見つけた! 食器棚の後ろに階段があったぞ! 追加の金は俺のもんだ!」
喜び勇んで近づいてきた男の顔面をマイケルは全力で殴り倒れた男を蹴り飛ばす。
「ぐえぇ……」
「臭い顔を近づけるな! 不快なゴミ野郎がっ!」
倒れている男の腹部に何度も蹴りを入れる。
「……カスだな」
誰にも聞こえないような声でそう呟いたのはブームであった。
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