episode.7
テーブルに広がるのは到底三人では食べ切れないほどの豪勢な料理の数々、そしてその前に立つエプロン姿のミッシェル。
「どうぞ召し上がれ」
「すげぇ! ご馳走じゃん!」
真っ先に手を伸ばそうとするカルトにミッシェルは手刀を繰り出す。
「いてぇ! なにすんだよ!」
「貴方が食べる料理じゃないわ! これは王子様に食べてもらうものよ!」
ここで言う応じとはブームのことである。
名前を聞いても頑なに答えないブームに対し呼称が欲しかったミッシェルが思いついた呼び名だ。
「俺も腹減ってんだから食い物よこせよ!」
「ったく! ほら! これでも食べてなさい!」
ミッシェルがカルトの前に差し出したのはどこからどう見てもドッグフードと書いてある箱と粗末な皿一つ。
「犬の飯じゃねぇか!」
「犬を轢いた夜は弔いでドッグフードを食べるの知らないのかい? 常識だよ?」
「マジカよっ! ごめんなワンコ!」
箱からドッグフードを皿に入れガツガツと食べ始めるカルト。
「そんな弔いあるはずないだろ」
「弔わねぇのかよ! 先に言えよ!」
嘘だとわかったはずなのにドッグフードを食べ続ける。
「さ、王子様こんな野犬の事は方っておいて食べましょう」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
ブームはフォークとナイフを手に持ちミッシェルが取り分けてくれた食事に口をつける。
「美味しい。お店みたいな味だね」
「うふふ。喜んでいただけて光栄ですわ」
「こんな広いお屋敷に住んでるのに自分で料理を作るなんて珍しいね。使用人さんはいないの? ご家族は?」
「ここには私一人しか住んでおりませんわ。両親は二人共半年前に事故で亡くなりました」
「失礼な質問をしてごめん」
「いいんですわ。でも、本当にこのお屋敷に一人で住んでると寂しいときはありますけど……」
「そうだろうね」
「そうですわ! 王子様住むところはありますの?」
「いや、僕達は基本的に車で生活してるから家とかはないね」
「それはいけませんわ! じゃあ好きなだけここにいていただいていいですわ!」
「マジかよっ! やったぜ!!」
「貴方には言ってませんわ!」
「俺には言ってねぇのかよ! 先に言えよ! にしてもだ」
ドッグフードを全て平らげたカルトが屋敷を見回す。
「ここ何か感じねぇか?」
「そうだね」
違和感、と言ったら良いのだろうか。
普通の人間ならば感じれない微量な空気の匂いをカルトとブームは感じとっていた。
「親父さんとお袋さんは何してた人なんだ?」
「私が生まれてからは仕事をしていませんでしたわ。お母様に聞いたことがあったんですがはぐらかされてばかりでしたし」
「それでこの豪邸かよっ。羨ましい限りだな」
「二人が亡くなった時に資産の相続があったのですが、私が一生遊んで暮らしても使い切れない額が入ってまして……本当に何をしていたのか今でもわかりませんわ」
「いいんじゃねぇの?金はないよりはあったほうがいいに決まってる。俺達なんて万年金欠だしな」
「それは君がお金があるとすぐ使っちゃうからだろ」
「はっはっはっ! 明日も生きてるとは限らねぇからな! 今日の金は今日の内にってな!」
その後、和やかに食事は進んでいった。
カルトはデザートで出された虫用のゼリーを「珍しい味がするウメェゼリーだ」と食べ進め、それを見たミッシェルは久方ぶりに心の底から笑ったのだった。
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