episode.6
「俺、わんこすげぇ好きなんだよ。それを轢いちまったなんてよぉ……」
カルトは落ち込んだ様子で野犬に駆け寄る。
「すまねぇなわんこ……ん? おい、こっち来てくれ」
ブームはカルトの横に来ると野犬の身体に触れる。
「下僕だね」
「やっぱりか。元わんこなら少しは気持ちが軽くなるな」
「車で轢かれただけで死んだとなるとかなり低級だとは思うけど何でこんなところに……」
「あっ! あの!」
ミッシェルが頬を赤らめながら声をかける。
「助けていただいて本当にありがとうございます!」
「あん? あぁ、こいつに襲われそうになってたのか? そりゃあベリーなタイミングだったな」
「わ、私!」
「おーい! ミッシェル!」
ミッシェルが何かを言おうとした時、先程ミッシェルを置いて逃げた彼が戻ってきた。
「近くの木の陰で隠れてみていたんだが、いやー君が無事で本当に良かった。さぁ、ここは危ないから早く街へ戻ろう」
「何言ってるの! 私を置いて逃げたくせに!」
「あれは偶然手が君の背中に当たっただけで僕は一緒に逃げるつもりだったんだよ」
「嘘つかないで頂戴!」
「何だ兄ちゃん、自分の女置いて逃げたのか?」
カルトがドスの利いた声で近づいてくる。
「逃げてない! 助けを呼ぼうとしにいっただけだ!」
「マジで! 普通に良い奴じゃん」
「嘘つき! 私の背中を押して逃げただけじゃない!」
「押したのかよ! 先に言えよ!」
カルトが男の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「ぐぅぅぅ……」
軽々と男の足が宙に浮く。
「なぁ兄ちゃんよぉ? 俺が嫌いもの二つ教えてやるよ。一つはピーマンだあれは人間が食べていいもんじゃねぇ。分かるよな? それともう一つは危険が危ねぇからって自分の女置いて逃げ出すチキン野郎だ」
「同じ事二回言ってるよ」
「え? ピーマンと二つ目同じ意味だったのか新発見だわ」
「離せよ……」
「わかった。離してやるよ」
カルトは掴んでいた胸倉を話すと男は足から崩れ落ち苦しそうに咳き込み始める。
「ゲホッ……覚えてろよ!」
男は喉を抑えながら街の方へと走っていった。
「けっ、あれで本当に男かよ! やっぱり男ってのは俺みたいな強いやつのことを言うんだよな! わかるか嬢ちゃん? 次に恋するときは……ってどういう状況!」
「私……とても怖かったんです」
カルトが後ろを振り返るとミッシェルがシクシクと涙を流しながらブームに抱きついている。
「わからない。急に抱きついてきたんだ」
「嬢ちゃん! 今の流れきちんと見てたのかよ! 抱きつく相手間違えてるぞ! 俺! 俺に来いよ!」
両手を広げてアピールするカルトには、一瞬はっきりと見えたミッシェルが「邪魔をするな」と自分の事を強い意志表示を持った視線を投げてきたことを。
「よろしければ家に来てください! 是非お礼がしたいのです!」
ブームを見上げながら声をかけるミッシェル。
「別にお礼なんて」
「いいえ! 命の恩人にお礼をしないなんてそんな失礼できませんわ!」
ミッシェルはブームの腕を掴み強引に引っ張っていく。
「俺は! ねぇ! 俺も命の恩人じゃん!」
カルトを無視してミッシェルはブームを連れてズンズンと街の方へ向かっていく。
「これだから女はわからん!」
カルトは車から杭を引っ張り出し紐で背中に括り付け二人を追って走っていく。
「ちきしょう! いつも女にモテるのはブームだけだ!」
薄っすらと涙を流しながら走るカルトを木の陰で見つめていたのは先程小物臭漂う発言をしていた男ーマイケルーだった。
「ミッシェルの家に行くみたいだな……くっくっくっ」
何かを思い付いたように不敵に笑うマイケル。
「僕を馬鹿にした罪は償ってもらうぞ」
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