Michelle

episode.5

 彼と出会ったのは一ヶ月前、街で歩いているときに声をかけられた。


「なんて素敵な方だ」


 人生で初めて異性に言われた褒め言葉。

 私は舞い上がってしまっていたのだ。


「僕と付き合ってください」


 その夜に夜景を見ながら言われた一言に私はその人を運命の人だと思ってしまった。


 今この瞬間までは。


「あっちへいけ!」


 二人で郊外を歩いている時に野犬が私達の前に飛び出してきたのだ。


「グルルルルルッ」


 異常なほどに凶暴で身体つきも普通の犬よりも一回りほど大きい、私達を睨みながら見える鋭い歯は噛まれたら一溜まりもないだろう。

 だが、一番の問題はこれだ。


「ひぃぃぃぃ! ひぃぃぃぃ!」


 彼が私を野犬の盾にしているのだ。


「ミッシェルどうにかしてくれよ!」

「どうにかって……」


 この一ヶ月私をエスコートしてきた限りなく完璧に近い彼は幻想だったのだ。

 今ここにいるのは私を野犬のエサにして自分だけ助かろうとしているヘタレだった。


「だから郊外になんか来たくなかったんだよ! 君のわがままにはホトホト愛想が尽きてたんだ!」

「今になってそんなこと言うの!」

「うるさい!」


 彼は私の背中を押した。

 私の身体がバランスを崩し、前に倒れ地面に両手を付いた時には彼は全速力でその場から逃げ出していた。


「ガァァァァァァ!」


 野犬は私に向けて襲いかかってくる。

 あぁ、男を見る目がなかったばっかりにこんなことになるなんて……やっぱり王子様なんてこの世には存在しなかったのね。

 私が半ば諦めていたとき。

 横から車が飛び出し、野犬を轢いて右側にあった小さな丘にぶつかり黒い煙を上げて止まった。


「やっべぇ! わんこ轢いちまった!」


 運転席から赤髪の長身の男が焦った様子で降りてくる。


「君が「こっちが近道な気がする」とか言って林道を走るからだ」


 助手席から降りてきたのは銀髪の……

 私の新たな恋が始まった。

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