episode.4
「ぅ……んんっ……」
サリーの耳に今にも爆発でもしてしまいそうな汚いエンジン音が流れ込む。
「え……ここ何処」
意識が戻り周りを確認すると、車の後ろの席にいることがわかった。
運転席には赤髪の男、助手席には銀髪の男が座っている。
車はガタガタと左右に大きく揺れており走ってるのがやっとのように思える。
サリーは何があったか思い出す。
自分が化物に喰われそうになる直前この車が家に突っ込んできたこと、そして自分の祖母が死んでしまったことを。
「うっ……」
それが分かった瞬間両方の眼から大粒の涙が溢れ始めた。
「……ぁ……ちゃ……ん」
「おい! 女の子が急に泣き始めた! 何でだ!」
「君、昨日のお風呂入った?」
「めんどくせぇから入ってない」
「ニオイが目に染みたんだよ」
「マジか! ごめんな嬢ちゃん」
「違うんです……」
「違うのかよ! 先に言えよ!」
「ごめ……んな……さい」
止めようと思ってもどうにもサリーの涙は止まらない。
「お婆ちゃん……」
「あー……そういうことかよ」
赤髪が自分の頭をクシャクシャと掻きむしる。
「あの化物なら俺がきちんとぶっ殺しといたよ。ばあちゃんの仇は取った。だから嬢ちゃん、今は泣けるだけ泣いちまいな。終わるまでは車走らせてやる。それが終わったら二度と婆ちゃんの事で泣くな。これから何年もばあちゃんの事を思い出して泣いてたらお前のばあちゃんも死んでも死にきれねぇ」
「……はい」
「たまにはいいこと言うね」
「たまにはってなんだ!」
ガタゴトとぶっきらぼうな音を立て車は走る。
両の涙が止まり、サリーが外の景色を眺め始めた頃、赤髪は車を停めた。
「さて、嬢ちゃんもう大丈夫か?」
「はい、すいませんでした」
赤髪と銀髪が車を降り、続いてサリーも外に出る。
外は暗く沢山の星が夜空を彩っている。
「お婆ちゃんはどの星になったのでしょうね」
「あれじゃね?」
赤髪が指を指したのは一際大きな光を放つ星であった。
「そうかもしれません……あのよろしければお二人のお名前を教えていただけませんでしょうか?」
「名前? 名前ねぇ……待て、あれなら教えてやれる。おい、あれ言うぞ! 今度はきちんと合わせろよな!」
「わかったよ」
子供のように笑い、赤髪は自分の右拳を夜空に突き上げる。
銀髪はそれに続いてゆっくりと左拳を上げた。
「「そう!俺達!」」
「「デやビまルだハさンとタうー」」
「ブラザーズ!」
「合わせろって言ってんだろ!!」
「第二候補」
「お前さぁ!」
サリーは大きな声を出して笑った。
「はー……ありがとうございました……やまださん、さとうさん」
「ちがっ……まぁいいけど」
「私、お婆ちゃんとの楽しかった思い出絶対忘れません」
「それがいい、可愛い嬢ちゃんには涙は似合わねぇよ」
「よかったらご飯食べていきませんか? 腕によりをかけて作ります」
「悪いな。気持ちは嬉しいが俺たちは行かなきゃいけないとこがあるんだ」
「そうだね」
「そうですか……また近くに来られたら会いに来てください」
「おう! その時は美味いメシ頼むぜ!」
「オニオンは抜いてほしいな」
「わかりました!」
さとう(仮)とやまだ(仮)が車に乗り走っていくのをサリーは見えなくなるまで手を振って見送った。
「達者に暮らせよ!」
遠くからそんな声がかすかに聞こえたような気がした。
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