第6話 普通の家族

 公園の後は4人でスーパーに出かけた。側から見たら普通の親子連れだ。しかし、俺は自分たちを他の家族と比べてしまっていた。俺と奥さんはちょっと釣り合わない気がした。エリートの俺と、そうでない層の奥さん。しかも、特段美人でもない。エリートの奥さんで、こういう容姿の人は、実家が金持ちとか、キャリアウーマンであることが多い。彼女は見るからに庶民だ。服もそんなにいい物を着てない。俺自身は一度も買ったことはないが、例えるとスーパーの2階で買ったような服を着ていた。ちょっと恥ずかしくなる。


 俺たちはカートを押しながらスーパーの中を歩いていた。

「夕飯は作りたいの。普段、外食が多いと思うから」

「うん。君の手料理食べたいな」

 俺のことを気にかけてくれる。そんな人はこの世に一人もいない。心配してくれる人がいる幸せ。手料理を食べさせてくれる人がいる。俺の知らなかった世界だ。普通の家庭というのが、いかに貴重であるかと、俺は気がつく。


 彼女は家庭的な人だ。穏やかで暖かな性格。旦那と離婚したんだろうか?こんな素晴らしい人と別れるなんて、もったいない。


 俺は子どもたちと風呂に入った。ロリコンではないけど、女の子の方にはちょっとドキドキしてしまった。母親は何とも思わないんだろうか。取り敢えず、俺は女の子の髪を洗ってあげた。体は洗わない。変に触ったりすると虐待だと騒がれるかもしれないし、俺自身、普段からお湯で流すだけにしているからだ。


 子どもとお風呂の入るのは楽しかった。2人は俺のアソコを見て、大きいと言って喜んでいた。子どもは昔から”チンチン”とか”ウンコ”というような言葉が好きなんだと改めて思った。とにかく新鮮で、子どもたちの態度が面白かった。自分が子どもの頃もこんな風にかわいかったんだろうか。誰もそう思ってくれなかったけど。

 シングルマザーの人と結婚しようかな。俺はもう50だから、実子より連れ子を育てた方がいい気がする。


 風呂にはかなりゆっくり入っていて、1時間くらいいたかもしれない。体を洗った後も、何をしてたのか忘れたけど、飽きずにお風呂で遊んでた。手の平を合わせて水を飛ばしたり、お風呂にもぐったりして、最後には、のぼせるからもう出ようと説得して、風呂から出た。


 それに、夕飯は最高だった。彼女は料理がうまくて、5品も作ってくれていた。しかも、1時間くらいで仕上げているんだから驚く。レシピも見ていないようだ。ただただ、すごいと言う他はない。味もお店みたいに美味い。こんな奥さんがいたら、お得だなと思う。外食に金を払うなんて馬鹿らしい。毎日家に帰って飯を食いたいくらいだった。


 ご飯の後はみんなでゴールデンのクイズ番組を見る。子どもたちが元気に答える。はっきり言ってつまらないのだが、子どもたちがかわいいので、俺も本気でのめり込む。その間、ママがお茶を入れてくれた。何も言わなくても、お茶が出てくる。そして、飲み終わるとすぐに片付けてくれる。いいなぁ。こういう人。


「そろそろ寝ましょう」

 ママが声をかけたが、まだ8時半だ。

「え、もっとテレビ見たい」

 子どもたちがごねる。

「ダメ。明日起きれないでしょ?」

「パパ〜」

 子どもたちが俺の服を引っ張って、味方になってほしいとせがむ。こういうのは、奥さんに阿った方がいいんだろう。そうしないとケンカになる。

「ママの言うことをちゃんと聞くんだよ」

 俺は2人優しく言った。

「はーい」

 子どもたちは全然反抗しないし、素直だった。俺って、この子たちにこんなに影響力があるんだ。自分の子だったらいいなぁ!俺は心から思った。この週末が終わったら、絶対、結婚して子ども作ろう。みんなありがとう。俺に家族の素晴らしさを教えてくれて。俺は心から感謝した。

 ママは先に子どもたちを連れて寝室に行った。今日は寝室で4人一緒に寝ることになっている。うちのベッドはキングサイズなのだが、子どもたちとママはベッドで、俺は床にマットレスを敷いてねる。そんな不便さも楽しいと、俺は幸せを感じる。


 子どもたちは寝るまでにぎやかに騒いでいた。

「パパ、明日も公園行こうね!」

「いいよ」

「じゃあ、早く起きる」

「早くって何時くらい?」

「6時」

「早すぎるよ!」

 俺は悲鳴を上げた。

「いつも、6時に起きてるの。無理かな?」

 奥さんが言うから、俺は早く寝ようと決意する。

「多分、大丈夫だと思うよ」

 6時はいくら何でも早いけど、9時に寝るとそのくらいに起きられるのかもしれない。9時間も寝れば自然に目が覚めるだろう。


 電気を消すと、子どもたちはあっという間に静かになった。子どもって寝るのが早いんだなと思った。俺も小学校低学年の頃は8時に寝かされていたっけ。こんな早い時間に寝るのは、入院した時以来だ。俺はその日、自分に起きた奇跡のような時間を振り返って、すがすがしい気分になっていた。

 子どもたちが玄関に入って来た瞬間、彼らが発した言葉。それが宝石のようにきらめていていた。二人の笑顔。プライスレス。でも、そうしたものは金で買った一時の幸福に過ぎない。ちょっと空しくなる。

 まるで、高級ソープで泡姫を指名するようなものだ。リアルでは付き合えないような美女といたす。セックスが男女関係の最終目標だと考えると、6万でも納得だろう。今回のレンタルさんは、9万だけど、高級ソープ以上の価値がある。男女が出会って、恋に落ちて、男女の関係になり、結婚を決めるまで、長い時間が必要だ。俺にはどうしても出来ないプロセスだ。

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