第3話 山羊さん
「お仕事は?」
「僕、宅建持ってるんで、名義貸ししてるんです」
「はあ。危なくないですか」
トラブルに巻き込まれそうなので心配になる。俺はやりたくない。
「まあ、そうですけど、今のところは大丈夫です」
「それだけで月10万の収入があるんですか?」
「いいえ。このレンタルの仕事とか、後はちょっと他のバイトもしてるので。塾のバイトを週3日で時給2000円でやってるんです」
「へえ。すごいですね」
何だ・・・割のいいバイトをしてるんじゃないか。塾の先生っていうくらいだから、高学歴なんだろう。俺はその人をちょっと下に見ていたのに裏切られた気がした。大学院卒でも就職できない人もいるというから、そういう人が教育産業に流れているのかもしれない。
「洋服なんかは?」
「友達のお下がりです。友達がアパレルとかにいるので。廃棄になる服を回してくれるんです。これも店で買うと1万くらいなんですよ。ブランドって、売れないと商品捨ててるんですよね」
俺はそんな友達はいないから、これも参考にはならなかった。
「月に10万で暮らすって、内訳をお聞きしてもいいですか?」
「奥さんに10万円払ってるんです」
「え?生活費として渡してるってことですか?」
「10万円でレンタルしてるんです。家族を」
「はぁ?」
「奥さんと子どもをレンタルしてるんですよ」
「24時間?」
「はい」
「へぇ。そんなサービスもあるんですね」
「ええ。一人身は寂しいですし、世間から変な人だと思われますからね」
「いやぁ・・・でも、レンタルっていつかは終了するんじゃないですか?」
「ええ。それが、目下の懸念事項ですよ。いつか終了するんじゃないかって」
「でも、普通の結婚も同じようなものじゃないですか?離婚する夫婦も最近多いですから」
「でも、結婚だったら、子どものために別れないっていう選択もありますが、僕の場合はそういうしがらみがないので」
「聞いちゃ悪いですけど、奥さんと夜の生活はあるんですか。すいません・・・立ち入ったこと聞いちゃって」
俺は興味津々で尋ねた。
「それはありません。あったら10万じゃ無理でしょう」
「そうですねぇ・・・その女性は何のためにレンタル家族をやってるんですか?」
「僕と住めば家賃タダですからね。それで、10万円入って来るっていう」
「それで、本当の家族みたいにならないんですか?」
「それが・・・僕を男として見れないって言われてまして」
そりゃそうだろう・・・草食過ぎるよ。あんた。
でも、俺も家族をレンタルしてみたいという願望がふつふつと湧いて来た・・・。
「レンタル家族はどうやって探したらいいんですか?」
「まあ、ちょっと。最初は、1日だけだったんですけど、直接交渉したらOKしてくれて、うちで同居することになりました。彼女もシングルマザーでしたから」
「なるほど、お互いの利害が一致したってことですね」
「はい」
「いいなぁ・・・僕も家族をレンタルしたいような気がしてきました」
好奇心旺盛な中年。俺は自分の突飛な性格を楽しんでいたのかもしれない。
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