第2話 おじさんレンタル

 俺がレンタルしたのは、自分と対局の人。いわゆるニートの人だ。ロースペックなのに、なぜか結婚できている人というのがいる。どんな人だろうと興味があるから、会ってみたくなった。


「月10万で楽しく暮らしてます。所有しない暮らしのコツを伝授したいと思います」

 惹かれるフレーズだった。俺は物欲にまみれていて、暇さえあれば通販サイトをチェックするような生活を送っている。家の中は物であふれ、3LDKに住んでいながら、服も書籍もクローゼットに入りきらない。だから、こういうミニマリストの人にいろいろ教えてもらって、断捨離できたらいいなと俺は思った。

 取り敢えず申し込んで、待ち合わせ場所は新宿にした。俺はほとんど新宿に行かないから、たとえ変な人だったとしても、もう一生会わないで済むようにしたかった。


 待ち合わせ場所に現れたのは、質素な出で立ちの、やせ型の男性だった。色白で小柄。動物に例えると山羊を連想させる草食な男性だった。俺とは外見も真逆だった。俺は地黒で背が高くて、アグレッシブ。新宿と言えば歌舞伎町の風俗を連想するタイプだ。


 俺は山羊さん(仮名)を伴って、ファミレスに向かった。山羊さんは何も言わないで俺に付いてくる。すべてがシンプルで無駄がない。その佇まいだけで、俺は彼に好感を持った。


「何か召し上がりますか?何でも好きなもの食べてください」

「え、いいんですか?」

「いいですよ。気にしないで」

 彼はメニューを隅から隅まで見て、3,500円のステーキを注文した。それに、スープ、パン、サラダがセットになったCセットというものと、ドリンクバー、食後のスイーツも頼んでいた。意外とよく食う人なんだと俺は思った。別に彼に6,000円くらい使っても気にならない。俺は財布のひもが緩いタイプだった。女の子と出かけたら飯を奢って、買い物も付き合ってやるのは当たり前だったからだ。しかも、同性で貧乏な人におごるのは気分がいい。


 目の前の山羊さんは意外と食べ方が汚かった。空腹なのか、ここで腹いっぱい食って、1日1食で済まそうとしているのかわからなかったが。俺は呆れて見ていた。俺が頼んだのは、ドリンクバーとサラダだけだった。

「意外と大食いですね。ぱっと見小食に見えるので・・・」

「いや・・・普段こういう店に来ないので興奮してしまって」

 山羊さんは悪いと思ったのか笑顔で答えた。

「あ、そうですか。こんなところでも喜んでいただけてよかったですよ」

 そこはちょっと高級路線のファミレスだったが、それほどおいしいと思わなかった。

「普段、外食しないんですか?」

「はい。基本自炊です。外食は割高ですからね」

「月の食費は」

「2万行かないですね」

「子どもがいるのに?」

「はい。家庭菜園とかもやってるし、田舎から米や野菜を送って来るので。だから野菜は買ってないですよ」

 こういう話はあまり参考にならない。俺にそんな親戚はいないし、家庭菜園なんかやる暇はない。

「じゃあ、買うのは肉や乳製品だけですか?」

「まあ、そうですね。でも、嫁がふるさと納税してるので」

「はあ」

「妻が会社員なんです」

「なるほど。家賃はどうしてるんですか」

「妻の親が前に住んでた家にいますよ」

「じゃあ、家賃ただ?」

「ええ、そうです」

「うらやましいなぁ・・・」

 家賃も食費がほとんどかからないなら、月10万も何に使ってるんだろう。むしろ不思議だった。



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