【8】


 場面は変わり。


 とある少女のスマートフォンから、着信音が流れ始めた。

 元気よく、表示されている通話ボタンを押す。


「もっしもーし!」

『ご苦労だった』

「いえいえ、これが私の仕事なので」

関東こちらへ私用で来てくれた日に、無理を言って済まなかった』

「ほんとそれねー。美味しい物奢ってよー? 

『父親に似て、ワガママな奴だ』

「にひひっ、褒め言葉として受け取っておくよ。

 さてっ、と……。コイツを『研究室』まで運んどいてねー。コレはそっちの仕事でしょ?」

『ああ、任せておけ。『回収班』をすぐに向かわせる』

「じゃ、そゆ事で」

『ああ……。しっかり、仲間にお礼を言っておくんだぞ?』

「もち!」


 少女はここで、通話を切った。

 あちこちが崩壊している高層ビルの頂上から、足元に広がる街中を見下ろす。


「お、母さんも出てたのね。その横で、あははっ、虎辰っち寝てるー。疲れちゃったんだねー。王子っちも来てるねー」


 少女は、にししっと笑った。


「二人共ありがと、お疲れ様っ」


 届く事の無いお礼の言葉を、少女は口にした。

 手助けをしてくれた――――ライバル達に向けて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る