【6】


 千個の『スキルエッグ』を探し出し、破壊する為に動き出す虎辰と王子。

 早速、虎辰が黒球に、「街中にある『スキルエッグ』を全て破壊しろ」と命令する。

 二個の黒球が素早く動き出し、街中の一定範囲を駆けずり回り、破壊していくも、たった百個しか破壊せず、手元へ戻って来た。


 百個――たった十分の一。


「ちっ! やっぱ街全体が範囲じゃ広過ぎるみてぇだな……コレだと、それなりに分かり易い所に隠されたやつは砕けても、かなり重厚に隠されたやつは破壊しようがねぇぞ」

「ふむ……私の血は、こういった捜索には不向きですし……どうしましょうか……」

「もう一回オレがやってみる」


 同じく二個の黒球に指示を出す虎辰。

 だが、先程と同じ命令内容で、破壊して来たのは僅か十個程度だった。

 そう、僅か十個。

 これならば、一個も破壊せずに帰って来てくれた方が、まだ希望が持てた。


 この十個の破壊は、イコール、前回捜索時に事実を明らかにした訳だ。


 まだ捜索漏れがある可能性は否めないし、場所を少しづつ移動しコレを何度も実行し続けると街中全ての『スキルエッグ』を破壊する事は可能だろうが……何分時間がかかり過ぎる。


(どうする……!?)


 早くも手詰まりだ。

 先程、王子自身が述べたように、彼女の【能力】はこういったケースに向いていない。そもそも、こういう時の為の力ではないからだ。

 となれば、虎辰の【黒球遊技】を主軸に行動を起こしていかざるを得ない。


 しかしそれも、現状では不可能に近い。


「ねぇ、虎辰さん」

「何だ?」

「私の血で――虎辰さんの【超能力】の底上げが出来る薬を、創造できるとしたら……どうします?」

「そんな事出来んのか!?」

「可能性はあります。一応、そういう【能力】ではあるので……けれど、リスクは伴う可能性があります。副作用とか……」

「関係ねぇ! リスクは置いとけ!! 今は、この状況を打破する事が先決だ! 創れ王子! その薬を!!」

「……分かりました。どうなっても、恨まないでくださいよ?」


 王子は、味方の【超能力】を向上させる薬の創造に取り掛かる。

 その間に、少しでも数を減らしておこうと、虎辰は動く。


「もしかしたら、その能力者と万屋が闘っている所が中心に配置されているケースも考えられる! そっちで、黒球走らせてみるから、出来上がったら持って来てくれ!!」

「了解しました。ご武運を」


 ビルとビル、ビルと建物、建物から建物へ移動し、ショートカットしつつ、悪者と人愛の戦場へと近寄って行く。

 そして、ある程度近付いた後、再度黒球へ命令を送る。

 二個の黒球が高速移動を開始。

 読みは当たっていたようで、今回は街中を比較的効率良く回ったようで、計二百五十個の『スキルエッグ』を破壊し、戻って来た。


 しかし、これでも合わせて三百六十個。

 千個には全然届かない。


 四度目の挑戦を行うも、四十個の破壊。


 やはり、まだまだ足りない。


(いっその事、街中のビルや建物全部、上から押し潰すか? いや、それは被害が大きくなり過ぎるし、一般人を巻き込む可能性がある。やっぱ移動しながら、詮索しつつ破壊していくしかねぇか……?)


 「虎辰さん!!」思考を巡らせてる再中に、王子の声が飛び込んで来た。


「薬――出来ました!」

「早いな!! だが、でかした!!」

「コレです、飲んでみてください!」


 王子の手の平に乗せられた、薬。

 それを手に取り、飲み込んだ。

 その瞬間、虎辰の身体にメキメキと力が溢れ出した。


「お……おぉっ! こりゃすげぇわ!! 今なら、百二十%の力が発揮出来そうだぜぇ!!」

「で、でもっ、時間優先で創り出した薬なので、副作用がどれ程のものなのかが、分かりません。無理はしないようにしてください!」

「今無理しなくて――いつするんだよぉ!!」


 パワーアップした身体と呼応するかのように、二つの野球ボール大の黒球が、大きめのバランスボールの大きさ迄膨らんだ。


「この大きさなら、もっと遠く、もっと深く詮索出来る!! 行けっ! 黒球!! この街中にある『スキルエッグ』を全て破壊して来い!! 遊技十八――隠れん坊!!」


 二個の大きな黒球が、先程とは比べ物にならない速さで動き始める。

 先程よりも、遠い所まで。

 だが。


「あがっ!!」

「虎辰さん!?」


 詮索範囲は増えたものの、その代償として、頭を鈍器で殴られたかのような頭痛が走った。

 ボタボタと、鼻血が流れ始める。


「やっぱり副作用が! この薬を作る時に、虎辰さんへの憎しみを加えていたのがマズかったのでしょうか!?」

(こいつ……薬創るのに、憎しみ加えていたのか? マジかよ!)

「構うかぁ!! このまま最後の一個まで砕き切ってやるよぉ!! う……おおぉおおおおぉおぉおおおおおぉおおおおおーーっ!!」


 だが……気迫虚しく。

 約五百の『スキルエッグ』を破壊した所で、二個の大きな黒球が、姿を消した。


 虎辰の身体が、限界を迎えたのである。


「がはっ!!」

「虎辰さん!!」


 膝を着く虎辰。

 やはり、【超能力】の強化という薬の副作用には凄まじいものがあり。

 頭痛だけでなく、動悸、息の乱れ……痙攣。

 様々な症状が、彼の身体を襲っていた。

 それでも……。


 虎辰は諦めない。


「やめましょう! これ以上は危険です! あと百個――残りは私がしらみ潰しに見つけて破壊していきますから!」

「それじゃあ、遅いんだよ……今、ようやく、手が届きそうなんだ!! 出来なかった事が、出来るようになる所なんだよぉ!! 万屋に追いつく――そして……この街を守るんだ!! これくらいの副作用で……膝をついて見ているだけなんざ! 出来る訳ねぇだろぉがぁ!!」


 執念で――虎辰は立ち上がった。


「【黒球遊技ブラックボール】!!」


 しかし、黒球は現れない。


「くそっ! 出て来い!! 【黒球遊技】!! 何で出て来ねぇんだ――」


 そしてこの時――悪者と人愛が闘っている場所から、再び爆発音が響いた。

 耳を潰しに来るような轟音。

 それが……何度も何度も。


 いくら、相手をしているのが、あの万屋人愛とはいえ、限界はある。


(まずい! まずいまずいまずいっ!! このままじゃ駄目だ!! 何とか……何とかしねぇと!! あと百個のレーザーが――)


 動揺し、錯乱したかのように思考を巡らせている虎辰。

 そんな彼を心配し、声を掛け続けている王子。

 目の前の事に囚われている二人は、近付いて来ているその足音に気付かなかった。


 否――その足音は、戦闘上級者の足音である為、例えどんな状況下であっても、今の二人が察知出来るものではなかったのだが……。


 それはさて置き、その足音の主は静かに、二人へと近付いた。

 そして、錯乱している二人をあやすかのように、優しく頭を撫でたのであった。


「っ!?」

「っ!!」


 突然、頭に優しく手を置かれ、驚き、振り替える虎辰と王子。

 そこに居たのは――



「二人共落ち着いて。方向性は、間違ってないから」



 二人が、知っている人物だった。


「大きい力を、大きいまま使おうとしちゃダメ。脳がパンクしちゃうからね」

「な……何で、あんたがこんな所に……?」

「うそ……本物の――『』!?」

「そう、本物よ。まぁ……『Sランカー』の中では、下から数えた方が早いのだけれどね。ふふふっ」


 突如現れたその『Sランカー』は、二人を思いっきり抱き締めた。


「ちょっ!? いきなり何を!?」

「ありがとうね! 二人共!! の為に頑張ってくれて! ありがとう!!」


 女子である王子はともかく、男子中学生という多感な年頃である虎辰には、このハグは効果的面だったようで、彼はあっという間に落ち着いた。


(い……良い匂いがする……!)


 いや、落ち着いてはいない。

 錯乱した思考からは抜け出せたものの、色んな所がビンビンだ。


「あら? 良い匂いだなんて、嬉しい事言ってくれるわね。サービスでもっとギューってしちゃおうかしら?」

「や、やめてくださいよ! 私達、もう中学生なんです! こんなので喜ぶ歳じゃないんです!」


 ハグから抜け出し、物申したのは王子だった。

 内心、ガックリとしてしまう虎辰。


 そんな二人を見て、クスクスと微笑む『Sランカー』。


「残念ね。まぁ、でもそうよね。そういう所も可愛いわ。……さて、兎にも角にも、冷静になってくれたみたいで良かった」


 そう、二人は今、先程までと比べて冷静になっている。

 改めて各々が、その事に気付いた。


 『Sランカー』の女性は言う。


「もう一度言うわ。私の娘……人愛の為に身体を張ってくれてありがとう。あなた達の存在が、きっとあの子に光を当ててくれる。そんな風に思えたわ。ありがとう。そのお礼として……ちょっぴり、レクチャーをしてあげる」

「レクチャー?」

「そう、レクチャー」


 『Sランカー』であり、万屋人愛のでもある女性――



 万屋よろずや 愛梨アイリはこう言った。


「その力の扱い方を、教えてあげるわ」

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