【5】


 全力疾走で現場へと向かう、虎辰と王子。

 スマートフォンをスピーカーモードにし、上層部から指示を受ける。


「一般人の避難はしなくて良いんスよね?」

『ああ、そちらは『Cランカー』の部隊に任せるので、お前達は『スキルエッグ』を使用している人間の確保をしてくれ。くれぐれも殺害はしないように。生け捕りだ』

「了解っす!」


「『スキルエッグ』という事は、が近くにいる筈ですよね? そちらはどうするんですか?」

『そちらの対応は、万屋人愛に任せている。彼女ならば大丈夫だろう。気にせず、『スキルエッグ』使用者の身柄の確保に全力を注いでくれ』

「人愛が動いているんですか!?」

『ああ、そうだが? 不満でもあるのか?』

「…………いえ、何でもありません。任務に集中します」

『うむ、健闘を祈る』


 ここで、両者共に通話が途切れた。

 先程の王子と上層部の会話は、虎辰の耳にもはいっていたようで……。


「本場のオレ達よりも、余所者の万屋の方が信用に値するって事か……舐めやがってぇ!!」

「気持ちは分かりますが、虎辰さん。今は任務に集中しましょう」

「分かってるよ! 糞がっ!! さっさととっ捕まえて、オレらもの所へ行くぞ!!」

「はい!」


 目的の『スキルエッグ』使用者の元へ辿り着いた。

 一人はサラリーマン風のスーツを着た成人男性。

 もう一人は、制服姿の女子高生だった。

 二人おり、両者共その手に、『光る卵』のような物を握り締めている。


 この『光る卵』のような物が、『スキルエッグ』と呼ばれる道具である。

 近くに潜む、【超能力者】の能力をスキャンする事で、同能力を『光る卵』から発動する事が出来る。

 即ち――


 超能力を持たない一般人に、条件付きで【超能力】を使わせる事が出来る。という事である。


「すげぇー!! 何だこの卵! この力があれば、あのクソ課長もぶち殺せるじゃねぇか!! もうパワハラを怖がる人生も終わりだぜ!! ヒャッハァー!!」

「この力があれば! あのギャルビッチ共を弾き飛ばす事が出来る! コレは神様からのご褒美なのよ! イジメに耐え抜いた私への……! コレで奴らを! ゾクゾクするわぁ!!」


 突然巨大な力を手に入れた一般人は、正気を失う。

 元々、闇を抱えていた人間ならば尚更だ。

 そういった人間を選別し、『光る卵』を渡している悪の組織が存在している訳だが……今はその説明は省略。


 虎辰と王子は、この二名の確保に努める。


「王子、お前は女子高生の方を頼む。オレはサラリーマンを捕える」

「了解です。くれぐれも殺さないように気を付けてくださいね?」

「もちろんだ!」


 二手に別れる虎辰と王子。


 それぞれ、サラリーマンの前に虎辰が。

 女子高生の前に王子が現れる。


 サラリーマンは憤る。


「何だテメェはぁああー!! ぶち殺されてぇのかぁ!!」


 『光る卵』を目前に掲げ、能力発動。

 一筋の【光線】が放たれる。


「レーザービームか」


 それを最小限の動きで躱した虎辰。

 が、外れたレーザービームが後方の建物に直撃し、大爆発を巻き起こす。


「……被害をこれ以上広げない為にも、あまり撃たせる訳にはいかねぇなぁ」

「何だお前……このレーザーを、避けただと? 何者なんだぁぁあー!!」

「そんでもって……避けるのも被害が広がるからダメってか。仕方ねぇな……能力発動――【黒球遊技ブラックボール】」


 虎辰の右手の平上に、野球ボール大の、黒い球が出現した。


「死ねぇええぇえーーっ!!」


 またしても【光線】が放たれる。

 今度は一発だけではなく、闇雲な連射だった。

 計八発のレーザービームが、虎辰目掛けて一直線。

 しかし虎辰は、それを避けようとはしない。


「遊技五――バリアー!!」


 彼がそう叫んだ瞬間、黒い球が一瞬で姿を変え、まるでバリアーのように虎辰の周囲を包み込んだ。

 八発のレーザービーム全てが、その黒いバリアーに直撃。

 計八回の大爆発を引き起こす。

 爆煙で視界が塞がれる為、サラリーマンは勘違いしてしまう。


「ヒャハハッ!! 当たったぁー! 直撃だぁー!! 死んだ死んだぁ!! オレを邪魔するから……」

「遊技六――縄」

「へ?」


 爆煙の中から、黒い縄のような物が目にも止まらぬ速さで伸びてくる。

 その黒い縄は、一瞬の内にサラリーマンの両手両足を縛りつけ、拘束してしまう。


「な、何だっ!? 何だコレは!?」


 爆煙の中から、虎辰が現れる。

 無傷の虎辰が。


「え? 何でお前無傷なんだよぉ!? レーザーくらった筈だろうがぁー!!」

「そんなチンケなレーザーがオレに当たるかよ……没収させて貰うぞ、それ」

「や、やめろ! それはオレの――」


 拘束したサラリーマンから、『光る卵』を奪い取り、放り投げる。


「遊技一――拳銃」


 黒い縄へと変化している右手の黒球とは別に、左手の平上にも黒球が出現し、拳銃の形へと変化する。

 そしてその黒い拳銃の銃口を、放り投げられた『光る卵』へと向けた。

 引き金を引くと、銃声と共に黒き弾丸が『光る卵』を貫き、砕いた。


「はい、終わり」


 サラリーマンは正気を失ったように倒れ込んだ。


「さて、王子の方は終わったかな?」



 王子と女子高生の方へ目を向けると……。


「【血液毒薬ブラッドポイズンドラッグ】――痺れ針」


 丁度、王子が自らの血で創り出した『毒の針』で身動きを封じた女子高生から、『光る卵』を奪った所であった。


「や……やめてぇ! それは私の力なのぉー!!」

「ごめんなさい」

「いやぁぁあーーっ!!」


 女子高生の絶叫と耳にしながら、王子は自分の血を『光る卵』の上に一滴落とした。

 すると、まるで腐るかのように『光る卵』はドロドロに溶けて消え去った。


 途端に、これまで破壊的思考を持っていたサラリーマンと女子高生が正気を取り戻した。


「ぼ……僕は一体、何をしていたんだ……? この状況は一体……」

「私、何でここにいるんだろう? 何で……街がこんなに、壊れているの……?」


 『スキルエッグ』こと『光る卵』を使用した者は、その間の記憶を失ってしまう程、負の感情を揺さぶられてしまう。

 そして、残るのは……原因不明の罪悪感のみ。


「ひょ、ひょっとして……僕が……コレを?」

「もしかして……私が……」


 罪悪感に苛まれる二人を、「沈静化したぞ!」「保護しろ!!」「メンタルケアを慎重に行え!!」と、『日本超能力研究室』が誇るCランク戦闘部隊が保護を完了させる。

 その様子を見ていた王子が言う。


「相変わらず……趣味の悪い事しますね、アイツらは」

「だな」


 二人は、『光る卵スキルエッグ』使用者を取り押さえたのにも関わらず、爆発が起こっている箇所を見つめる。

 そこに――


 万屋 人愛がいる筈だ。


 そして尚も交戦中であるという事が、爆発により伺える。


「行くぞ王子!!」

「はい! 虎辰さん!」


 加勢に向かおうとした……その時――

 二人のスマートフォンが、同時に音を立てた。

 着信である。

 即座に通話に出た。


『『スキルエッグ』使用者の確保、ご苦労だった。既に『呼応能力者』は万屋人愛が追い詰めている』

「そうなんスか? でもまだ、交戦中の気配が……」

『そうだ、察しが良いな億岐虎辰。問題発生だ』

「問題……?」

『現在、万屋人愛が交戦中の【光線】能力者だが、厄介な仕込みをしているようだ』

「仕込み……?」

『この街中に、約千個の『スキルエッグ』を至る所へ配備し、能力者が戦闘で敗北した際に、自動で能力を発動するというプログラムを設定しているそうだ』

「はぁ!? 千個!? それって――」

『想像の通りだ。この街の千箇所で、大規模な爆発が引き起こされる――大災害になりかねん』

「それで万屋は、まだ……」

『そういう事だ。そこでお前達に頼みたい。その千個の『スキルエッグ』全てを、除去して貰いたい』

「はぁ!? 千個を二人で!?」


 「それは幾らなんでも不可能です!」と、王子も反応している。

 どうやら彼女も、同じ司令を受けた様子だ。


『出来なくてもやれ、司令だ』

「無茶言わないでくださいよ!!」

『出来なければ、多くの人が犠牲になるか、万屋人愛が疲れ果て、敵を取り逃がすかの二択だ。どちらを選ぶ?』

「その選択肢は卑怯だ!!」


 「増援を求めます!!」王子が訴える。

 しかし上層部の考えは変わらない。



『『お前達二人でやるんだ』』


 無茶苦茶な司令に、明らかな動揺を見せる二人だったが。

 次の一言で、二人は気を引き締める事に成功する。

 その一言とは……。



『『万屋人愛が――と言っていたぞ?』』



 だった。


 目を見開く、虎辰と王子。


「万屋が……そう、言ったんスか?」

『ああ、そうだ』


「人愛が……そう言ったのですか?」

『言った』


『『万屋人愛は――お前達を信じているぞ! だからやるんだ! 何としても!!』』


 動揺していた気持ちが震え出す。

 二人の中で芽生えていた負の感情が消え去った。


 最強の――ライバルの言葉で。


「「はい! 分かりました!!」」


 二人は声を揃えて返答する。


「「任せてください!!」」

『『よく言った! 頼んだぞ!! 二人共!!』』


 通話が途切れる。

 ハァー……と、溜め息を吐く虎辰。

 勢い余って引き受けてしまったものの、無茶な任務である事には変わりない。

 無茶どころか、無茶苦茶だ。

 二人だけで、街中に隠された『スキルエッグ』を千個見つけて破壊しろ?

 無謀にも程がある。


 だけど――引き受けてしまった以上、やるしかない。


「……何か、万屋の奴に乗せられただけの気がするな。ほくそ笑んでるアイツのにやけ面が目に浮かぶぜ……」

「同感です。私とした事が、迂闊にもこんな無茶を引き受けてしまいました。大失敗です」

「なぁーに言ってやがんだ、お前は昨日から今日にかけて失敗したおしてるじゃねぇか。今更だろぉが」

「自分の失敗は棚に上げるんですね」

「けっ、抜かせ……。何にせよ、コレで千個の『光る卵スキルエッグ』見つけ出さなきゃ、万屋に鼻で笑われるよな?」

「……ですね」

「それだけは……腹が立つよなぁ?」

「ですね」

「よっしゃあ!!」


 虎辰は両手を叩き気合を入れる。


「見つけ出してやろうじゃねぇかぁ!! 千個全部! そんでぶっ潰してやるよぉ!!」

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