【3】


 翌日――

 約束の九時。駅前。


「お待たせしましたー」

「遅せぇよ!! こういった集合は十分前集合が基本だろうが!! 何で時間ピッタリに来てんだよ!! 日本人じゃねぇのかテメェは!!」


 出会って早々、王子を捲し立てる虎辰だった。


「良いじゃないですか、別に遅刻した訳でもありませんし。まったく、口調の割に真面目くんなんですから。もっと、口調とキャラを合わせるよう努力してくださいよ」

「ならわざと遅刻するようなキャラになれってか? 御免だぜ」

「まぁ、それはともかく、さっさと作戦会議を始めましょうよ。時間がもったいないです。人愛が来ちゃいますよ?」

「本当は十分前から始めて、もう終わってる手筈だったんだよ!」

「だから私は遅刻してないんですって。十分前行動を当たり前みたいに言うのやめてくださいよ。面倒臭い人ですねぇ」

「何だとぉ!?」


 ここから罵り合う事、約二分。

 仲が良いのか悪いのか分からない二人だった。


 作戦会議が始まる。


「ノコノコとこの街に現れた万屋を、オレとお前の【能力】で拘束して連れ去る! 以上!! 作戦会議終了だ!!」


 作戦会議は五秒で終わった。

 王子に冷ややかな目を向けられる。


「何だよ? 作戦に文句でもあんのかぁ?」

「いや、作戦ではなくあなたに文句があります」

「やんのかゴラァ? おぉ?」

「昭和のヤンキーみたいに凄むのやめてくださいよ。そんな事してる暇ありませんよ。作戦開始なんでしょ?」

「おう! 作戦開始だぁ! ついて来い!」


 そんな訳で、作戦開始。

 意気揚々と駅の中へと入って行こうとする虎辰へ、「ちょっとちょっと」と王子が問い掛ける。


「どこへ行ってるんです?」

「駅の中に決まってんだろ? 新幹線で来るんだろ?」

「はい?」

「え?」

「飛行機ですよ?」

「へ?」

「彼女は飛行機で、この街にやって来るそうです」

「はぁ!?」

「昨日の夜、嫌々お馬鹿さんと連絡取った所、本人がそう言ってたとの情報を得ています。飛行機で間違いないと思われます」

「何でそれを早く言わねぇんだよぉ!! 空港って、こっから真逆の方向じゃねぇか!!」

「? 駅を待ち合わせにしたのはあなたですよ?」


 首を捻る王子。

 どうやら彼女は言葉遣いとは裏腹に、ルーズな性格をしているようだった。


「だぁーっ!! もうっ! 色々言ってやりたい事は山程あるが、時間がねぇ!! 走るぞ!!」

「了解です」


 二人は空港へ向かって走り出した。

 駅から空港までは、車を使っても三十分以上はかかる距離である。

 間に合うのか?


 結論から言うと、間に合わなかった。


 二人が全速力で走り、あちこちのビルや建物を飛び越え、ショートカットをして、車よりも早い二十分で空港に到着したものの。

 万屋人愛が乗っていたであろう飛行機は、どうやら三十分も前に着陸しており、既に空港を後にしている様子だった。


 そもそもの話、待ち合わせ場所どころか、集合時間すらも設定ミスであり。

 目も当てられない結果となってしまった。


 空港付近のベンチに座り、打ちひしがれている虎辰。


「そういやオレ達……万屋がこの街に来るって事以外、何の情報もないまま、待ち合わせ場所と時間設定しちまったんだよなぁ……」

「そうですねぇ」

「アホだな……オレ達」

「そうですねぇ、アホですね……虎辰さんは」

「オレ限定かよ!?」

「だって、待ち合わせ場所と待ち合わせ時間を決めたのは、あなたですし。私は関係ありません」

「お前だって! 昨日飛行機で来るって分かってたなら! 何で連絡寄越さねぇんだよ!! それが分かってたなら待ち合わせ場所変えてたっつーの!!」

「えー……だって、めんどくさかったですし、眠たかったんですもん」

「お前なぁ!!」

「あーもう、傷の舐め合いはやめましょう。どうせ、到着時間が分からなかった時点で確保は不可能だったんですよ。作戦内容も、アホ丸出しの内容ですし」

「今お前……オレの考えた作戦を、アホ丸出しと言ったか?」

「細かいことを気にするのはやめて、せっかく空港まで来たんです。近くのレストランでパフェでも食べませんか?」

「………………」


 虎辰は、少し考えた後。


「そうだな」


 と、王子の申し出を承諾したのであった。


「甘い物でも食べながら、次どうするか考えるとするか」


 そんな訳で、喫茶店を探そうとスマートフォンを取り出した虎辰だったが、それを王子が制止した。


「調べなくても大丈夫です。私、この辺なら美味しいパフェがある店を知ってますので」

「そうなのか?」

「はい、この辺りは私の縄張りですので、御安心を」

「縄張りって……けど、そういう事ならお前に任せるわ」

「では、ついて来てください」


 王子に先導され、彼女おすすめのレストランまで歩く。

 その十分後に到着。

 全国的に有名なチェーン店だった。

 ここかよ。と内心思いながら、店内へ。


 「いらっしゃいませ」と笑顔の店員さんが迎え入れてくれた。

 王子が「二名です」と伝えると、「こちらの席へどうぞ」店内の席へと案内される。


「ご注文が決まりましたら、お呼びください」

「大丈夫です。もう決まっていますので」

「あ、では、お伺い致します」

「『ギガメガウルトラスペシャルアイス十段盛りパフェDX』――で、お願いします」


 その注文を聞いた瞬間。

 店員の表情が変わった。


「正気……ですか?」

「もちろんです」


 凛々しい表情で返す王子。

 何やら火花が散っているようだ。

 何が何やら分からない虎辰は(何だこれ?)と首を捻る。


 店員はニヤリと笑って一言。


「かしこまりました」


 厨房へと消えて行く店員。

 すると厨房の中から、どよめきが巻き起こったのが分かった。

 「挑戦者か!?」という声が聞こえてくる。


「挑戦者? 挑戦者ってどういう事だ?」


 虎辰が王子へ尋ねる。


「届いた物を見れば分かります」

「?」

「覚悟しておいて下さい……虎辰さん」

「覚悟? パフェ食うだけだろ?」

「確かにパフェを食べるだけですが……これは、闘いです」

「あぁ? パフェ食うのが、何で闘いになんだよ?」

「だからそれは……現物を見れば分かりますって。同じ事何回も言わせないでください」

「?」


 そして、この数分後――虎辰は理解する事になる。

 パフェを食べる事、それが闘いと称される意味を。

 

 

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