作家の誕生

ぬるま湯労働組合

作家の誕生

 つまらない。つまらない。あの小説も、この小説も、つまらない。

 「つまらない」と書いた手紙を作者に送ったこともあった。返信は返ってこなかった。

 つまらないものを何もかも読みつくしてしまって、だからこう書きこんだ。


「このツイートをリツイートした方の小説、読みます。小説投稿サイトでも、ブログ形式でもかまいません。リプ欄に作品のURLを貼った方を参加者とみなします。1作品につき1万字は読みます。リプライで感想を書きますが、ぼくはとても素直です。ご注意を」


 鳴りやまない。鳴りやまない。スマホの通知が鳴りやまない。60フォロワーの小さなアカウントに、30分で100件を超えるリツイート。

 だれにも読んでもらえない素人作家たちが、まるで水面で酸素を求める観賞魚みたいに群がってくる。


 リプライで埋めつくされた画面をスクロールしていると、まずこんなタイトルが目に入った。


「嫌いな上司と異世界に転生したら俺は勇者でやつは奴隷だったざまぁ」


 ぼくはふんと鼻で笑った。こいつの作品から読んでやろう。


 つまらない。つまらない。やはりなにを読んでもつまらない。送られた作品は全部きっちり1万字ずつ読んでやった。夜も眠らず。中学校も休んで。


 読み終えた作品には「感想」を送る。

「ごめん、つまらなかった」

「文章が読みづらい」

「こういうジャンル無理なんだよね」


 「感想」には返信が来た。「読んでくれてありがとうございます」とか「なんかすみません」とか「ご無理をなさらないで、なんだか見ていてつらくなります」とか。

 すまないと思うなら、最初から送ってくるなよな。無理なんてしてないし。「応募作」は既に700件を超えている。


 ぼくはどんどん「応募作」をさばいていった。つまらない、つまらない、どいつもこいつも

 

 ……あれ?


 これちょっと好きかも。


「つまらなかった。文体がぼくには合わない」

 返信を送ってぼくはスマホを閉じた。


 ぼくも小説とか書いてみようかな。






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