終章

ご神木の声に耳を傾けているうちに、眠くなってきた。そして、次に目が覚めた時には。

「出雲!」

 見慣れた姉の顔がそこにあった。何日ほど経っているのだろう。立ち上がり、

「すまない、心配させたな。出音」

と自分は元気であると証明してみせた。それを見て、出音も安心した様だ。表情をくしゃりと崩した。

「まったく……何をしていたの?こっちは大変だったんだから……」

 そう言う出音だが、声の調子は落ち着いている。

「すまないな。だが、白兎を通じて一度夢に出てきてくれただろう。あれは安心感があった。ありがとう、出音」

「いいよ、あれは白兎くんの力で成しえたことだもの。お礼なんて要らない」

 そういえば、白兎は何処に行ったのだろう。私の側近であり、神の遣いの白兎は。居たら真っ先に私の方へ駆け寄ってきそうなものだが。その心配を表情には出さず、出音に問う。

「白兎は何処だ」

「今、出雲の寝床で寝てるよ。やっぱりあれは大分霊力を消耗したみたいで、終わった後に倒れてしまったの」

「そうか。見舞ってくる」

 そう出音に言い残し、自分の寝床へと向かう。そこには確かに、疲れ切って眠っている白兎の姿があった。すぅ、すぅ、と端正な顔から吐き出される寝息。健康面に異常はなさそうだ。

「おい、白兎」

 身体を揺さぶりながら声をかけると、「出雲様……?」と反応があった。

「そうだ、私だ。帰って来たぞ」

 白兎にそう声をかけると、「出雲様!」と今度は明るい声で返答があった。真っ白な髪がなびき、赤い瞳がこちらを見据える。

「僕……僕、心配したんですからね!」

 私の姿を見るなり泣き出す白兎。悪いことをしたとは思うが、こちらも想定外の出来事だったのでどうしようもない。

「すまなかったな、心配をかけた。もうあのようなことは起こらないから、安心してくれ」

白兎をぎゅっと抱きしめると、体温が伝わってきた。



「じゃあ出雲、今日もよろしくお願いね」

「こちらこそ。前線は任せたぞ、出音」

 私たちは今日も戦う。自分たちの居場所を守る為に。ヤマト政権を追い払う為に。

 未来がどうなっていようとも、私は今自分ができることをするのみだ。

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伝説の巫女が時間を越えて、この世界にやって来たらしい。 景文日向 @naru39398

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