第五章
数日後、大和が家を訪ねてきた。
「出雲、居る?」
「居るよ! 呼んでくるけんちょっと待っててな!」
いずなが応対した様だ。「出雲さん、大和くん来てますよ」と呼ばれたので、玄関まで出向く。
「何か調べた成果はあったのか」
私は問うた。大和は間髪入れずに
「あったで。今から説明するから、いずな家入るで」
と答え、「お邪魔します」と挨拶をし居間へと向かっていった。私もそれについていく。
「あ、え、ちょっと……もう、お茶用意してくるね」
いずなは戸惑いながらも大和を迎え入れた。
いずなが茶を入れている間に、私たちの会話は始まった。
「結論から言うと、出雲がこの時代に来てもうたのは誤作動という言葉が一番近いな。霊力が暴走して、この結果になったみたいなんや。心当たりはある?」
数日前のことを必死に思い出す。あの日は確かに酷く疲れていて、霊力の制御が上手くいっていなかったかもしれない。その旨を大和に伝えると、「やろ? 原因はそれや」と断定された。
「暴走には暴走で戻ってもらうしかないねん。出雲、普段制御しとる霊力を全開にしてご神木に座りに行き。多分それで、解決すると思うで」
「待て。その情報はどこから出てきたんだ。ヤマト政権に私のことが認知されていたのか?」
だとしたら、今後非常に戦いづらい。弱点まで知られていたら、私は間違いなく殺されるだろう。良くて生け捕りだ。しかしそれが、私の選んだ道。後悔はない。
「せやで。『強大な霊力を持つ巫女出雲国にあり』って、アンタのことやろ。巫女が行方不明になったことまでバッチリ書かれとる」
どうやら、弱点までは知られていないようだった。そこに一安心しつつ、
「では、ご神木のところまで行けばいいのだな」
「霊力全開にするの、忘れたらあかんでー」
私は普段抑えていた霊力を開放した。体が軽い。だが、この時間はあまり長く続かないので急いでご神木に向かう。
「あ、待ってや出雲」
「何だ」
大和は一呼吸置くと、耳元で囁いた。
「少しの間しか一緒に居られんかったけど、出雲のこと好きや。愛しとる。来世があったら、その時はよろしゅうな」
来世はいずなだ、と言おうと思ったがやめておいた。二人の関係を壊してしまうかもしれないからだ。
「出雲さん、大和くん、お茶……ってあら? 出雲さんは?」
「元の時代に帰るみたいやで」
いずなは何とも間が悪い。私はもう家を出た後だった。霊力は、周りの人間の動きを察知したり言葉を拾うことが出来る。ただ、使いすぎるとあの日のような暴走状態になってしまうのが難点だ。暴走状態になると、全ての感覚が研ぎ澄まされた後眠りに落ちる。あの日の状況そのものだ。
そんなことを考えても仕方ないので、歩調を早めご神木へと向かう。
何年経っても、そこに存在し続けるご神木。そこに安心感を覚える。そして私はあの日の様に、ご神木を背にもたれかかった。
だが、しばらくしても眠気が襲ってこない。当たり前だ。今日は疲れることと言えば、霊力を開放したくらいだ。それもまだ、短時間。あの日のような疲れ具合には、程遠い。それでも目を瞑りご神木の感覚に同調してみる。すると、ご神木の葉が揺れた。風は吹いていない。ご神木本体の意思だ。
“本当に帰るのか。あの乱世に”
初めてご神木の声を聞いた。落ち着いていて、深みのある声だ。男性とも女性ともとれる、不思議な声だ。
「帰らなければ。私にはまだやることがあるから」
姉の補佐をせねば。ヤマト政権と戦わなければ。やることは山ほどあるのだ。
“そうか。あちらの世界でも健闘を願っている。私はいつでもここから人間のことを見守っているから”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます