第三章

 私が生まれたのは、争いの絶えない時代だった。私は霊力を、双子の姉は武術の才を見出され、やがて国を防衛することになった。敵対勢力の中でも私たちの名前は有名になっていった様で、命を狙われる機会も増えていった。そんな毎日を過ごしていたからこそ、今この時代は平和すぎると感じている。それがヤマト政権によってもたらされたものだと考えると、悔しくなるが。出来れば私たちは、そのままでいたかった。

 敵対勢力というのは、もっぱらヤマト政権だった。国を統一したいというのが彼らの願望であり、私たちはそれに刃向かっていた。自分たちの居場所を守りたかったのだ。

ヤマト政権。その首長の名前はヤマトという。あの、いずなが恋をしている少年と同じ名だ。風貌も非常によく似ているため、生まれ変わりなのではないかとも考えた。恐らくそれは間違っていない。纏っている気配が、非常によく似ているからだ。

そしていずなは、私の生まれ変わりとみて問題ない。顔立ちや体格、そして声。雰囲気が違えど、私にそっくりだ。どれくらいの時を越えたのかはわからないが、生まれ変わりと前世が対面することなんてあるのか。素直に驚いた。

では、姉は何処に居るのだろうか。私だけ生まれ変わるなんて、そんなことはありえないはずだ。しかし、いずなはこの家に一人で住んでいると言った。生き別れの姉でも居るのだろうか。帰ってきたら、それとなく聞いてみよう。



「やっと終わりました……」

 いずなが帰ってきたのは、もう日が落ちてからのことだった。桃に付き合わされ、大分疲れている様だ。

「お疲れ様、いずな。ところで聞きたいことがあるのだが」

 いずなは背筋を伸ばし、「何でしょう?」と話を聞く態勢になった。

「いずなには、姉が居たか?」

「居ません」

 即答であった。となると、生まれ変わっても必ず近場に居るわけではないらしい。そもそも姉が生まれ変わっているのかどうかも怪しいが。

「そうか」

 私は短く相槌を打ち、話を終わらせた。

「出雲さん、お腹空いとるよね……今からご飯作るけん、待っててくださいね」

「ありがとう」

 疲労困憊のいずなだが、私への気遣いは存在しているようだ。ぼんやりと姉のことについて考えているうちに、料理が運ばれてきた。

「手抜きでごめんなさい」

 そういずなは言うが、毎回あの時代では見たこともない料理が出てくるのでこの時間は楽しい。

「気にするな。いただきます」

今日は魚料理の様だ。何の魚かは不明だが、一口食べると旨味が広がってきた。ただ焼いた魚に何かを添えることで、ここまで美味しくなるとは。私は料理をしないが、あの時代に帰れたら料理番に伝えよう。そう決意した。

それにしても、いつになったら帰ることが出来るのだろうか。三日近く留守にしているが、あの時代は大丈夫なのだろうか。考えだしたらキリのない不安が、脳内を支配する。せめてあの時代の風景だけでも見られたら__そうは思うが、どう霊力を使えば見られるのかがわからない。

「出雲さん、また怖い顔してますよ。大丈夫ですか?」

 私も考えていることが顔に出やすい部類なのかもしれない。いずなに余計な心配をかける訳にもいかないので、「問題ない」と答え再び食べ進める。いずなは怪訝そうな顔をしたが、「そうですか」と深く追求してこなかった。



 風呂を終え、床につく。明日は何をしようか。帰れる道が見つからず、焦りだけが募っていく。考えても仕方がないことなのだが、あの時代はどうなっているのだろう。姉は、父は、母は元気だろうか。何かの手段で、無事だということだけでも伝えられたらいいのだが……。そんなことを考えながら、気が付くと眠っていた。

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