第2話 餅との遭遇with"??"

 目の前に巨大な餅のようなナニカがある。上から下まで視界に収めることができない大きさのソレは、あらゆる色が斑点としてばらばらに混じりあった奇妙な姿を持ち、近寄ってきた単色の半透明の小さな餅を吸収している。

 (なんじゃ、あれ。)

 得体の知れない状況に置かれていることを理解した俺「高畑智也」は何故このような場所に自分がいるか記憶を遡る。

(確か…ホームから落ちて…あれ?)

 そう、自分は確かに死んだはずだ。最期まで惨めに何者にもなれずただ死んだはずだ。

(じゃあここは?あの世…的な?)

宗教観の無い自分にはここがどういう場所か判断がつかない。が、下を見ても地面が無いことに自分を含めた全ての物体が浮遊しているのだと気付き、夢でも見ているようだと現実逃避したくなる。気持ちを抑えなんとか意識を引き上げ再び前を見ると、巨大な餅との距離が狭まってきているではないか。

(いや、これは……。俺が近づいている?動いてないのに?…)

まるで遊歩道に乗っているかのように自分が自動的に前に進んでいるのがわかる。

得体の知れない不気味さになんとなく一歩下がろうとする。

(!?、体が…動かねぇ…?…っっ!!)

意識が戻ってすぐに気づけなかった自分を呪う。動くはずがない。何せ"全て"が無いのだから。

(顔も手も足も無い…なのに周りの景色は見えるのか?)

目は無いはずなのに見える。周りで色とりどりの小餅が数えきれない数自分と同じ方向へ進んでいるのが見える。

(側から見たら俺もあんな感じの小餅なのか?だとしたら体が無いのにも合点がいく。でもこのまま進むと……!吸収される…!?)

逆行しようとしても脚は無く、声を上げようとしても声は出ない。体験したことが無い謎の危機感が頭の中に充満する。

(マズい!何が!?わかんねーけどマズいことだけ分かる…!)

吸収されることで何が起こるのか俺には皆目見当もつかない。ただ無くなった五感のかわりに第六感は吸収されてはダメだと告げる。

まるで…

(自分が自分でなくなっちまうみたいな…)

「ヘェ、感がイイねェ☆大正解さ♪」

耳を無くしたはずの自分に、聞こえるはずのないソプラノな声が響く。

(!? 誰が、一体どこから…?……!!??)

いた。真横に。上下左右どこを見ても餅しかいない世界に。たとえ現代日本であっても異質に見られるであろうピエロ、いやピエロ衣装を身に纏い隈取り顔の面をつけた少年が。

「やァ、はじめましテ→。

ボクの名前はゼウス。

君達の親愛なる隣人さ¥。」

 

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