第8話
49日と納骨を済ませたかずは、祖父と宗次郎の3人で田植えをしていた。
両親が他界した直後から、しばらく祖父母と暮らしていたが、納骨を済ませた後、かずから切り出し、両親と住んでいた家で一人暮らしを始めていた。
一人暮らしといっても、常に誰かが気にしてくれるせいか、人の行き来が多く、賑やかな暮らしなんだけど、寝る直前、一人になると寂しさが襲ってくる。
かずは布団の中で静かに涙を流し、気が付くと朝を迎えていた。
そんな暮らしにも少し慣れた頃、日課になった両親の墓参りをしに裏山へ。
墓参りといっても、そこに両親の遺骨はなく、山道の端に大きな石がポツンと置いてあるだけ。
裏山を歩き、途中で野花を摘み取った後、まっすぐに両親の墓へ。
お墓の前に花を手向け、手を合わせる。
無心で静かな時間を過ごした後、ゆっくりと立ち上がり、山道を歩き始めていた。
山道を抜け、家屋が見え始めると同時に、男性たちの怒鳴り声が響き渡る。
驚きのあまり、急いで山道を駆け抜けると、祖父母の家の前で呉服屋の主人と宗次郎、祖父母が正座し、男性3人に向かって何かを懇願していた。
「まだ田植えが始まったばかりで」
「うるせぇ! 年貢は義務だろうが!」
「ですから、年貢を管理している勘定奉行には事情を話してありますし、収穫が終わったら…」
「黙れってんだよ!」
呉服屋主人の言葉を遮るように、男性は主人を蹴り上げる。
「おじちゃん!」
思わず大声を出し、かずは主人のもとに駆け寄った。
「おじちゃん、大丈夫?」
「なんだよ。 若い女がいるじゃねぇか。 お前いくつだ?」
「10…」
かずの言葉を聞いた途端、男性は顎で合図し、かずは二人の男性に両腕を捕まれる。
「そ、その子だけはやめてくだせぇ!」
祖父が懇願するように男性の足にしがみついても、あっけなく蹴り払われ、祖父は顔から血を流していた。
何が起きているかもわからないまま、両腕を二人の男に捕まれ、必死に抵抗しても、腕を離すどころか、余計に力を籠められる。
「離して! いやだ! 離して!!」
「うるせぇ!」
男性の怒鳴り声と同時に、乾いた音が響き渡り、かずの頬は痛みを伴うとともに、赤く染まっていく。
『何が起きたの? この人たちは誰? どうしてこうなってるの? みんなで楽しく過ごしてたのに… どうして頬が痛いの?』
突然のことに理解が追い付かず、かずは抵抗することをやめ、涙を流しながらどんどん遠くなっていく村のみんなを眺めていた。
かずは抗うこともなく、馬車の荷台に押し込められ、ボーっと空を見上げる。
『お天道様、あの位置だ… もうすぐお茶の時間だな… 明日は習字の日だ… なんて字を書くって言ってたっけ? 上手に書けるかな…』
憎たらしいほど輝く太陽を眺めながら、どんどん遠くなっていく村のにおいを感じ、静かに涙をこぼし続けていた。
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