第7話

左之助が自身の部屋でゴロゴロしていると、右京が急ぎ足で左之助のもとへ。


「相田橋のふもとであがりました」


右京の言葉を聞いた途端、左之助は飛び起き、急いで馬小屋へ。


二人は馬を走らせ、相田橋へと向かっていた。


離れた場所に馬を止め、急ぎ足で歩くと、牛車と不安そうにしている牛の姿が視界に入り、泣き叫ぶ少女の声がはっきりと聞こえてくる。


「どうした?」


左之助は、まるで通りかかっただけのように、群がる人に聞くと、近くにいた女性が告げてくる。


「ご両親が斬られたんだってさ。 なんでも年貢を納めに行く途中だったらしいわよ」


「年貢?」


「盗賊でも来たのかしら… 怖いわねぇ…」


女性の話を聞いた後、視線を河岸に移すと、遺体のすぐ横で少女は男性にしっかりと抱きしめられ、泣き叫び続けていた。



その日の夜、左之助は右京とともに近江屋へ行き、昼間見た違和感について話していた。


「俵だけ持っていくってことは、向こうは運ぶ手立てを持っていた」


「御家人が2俵の俵を運ぶとしたら、牛車ごと持っていくはずです。 やはりもっと大きな何かが動いてるとしか…」


二人は腕を組んで考え込むも、答えを見いだせないままでいた。



翌日、左之助は一人遠方にある裏長屋へ。


入り口となる門を潜り抜けると、陰に隠れていた男性が数人、左之助を睨みつける。


左之助は何も気にすることなく足を進め、道端で洗濯をしている女性に話しかけた。


「この辺で猫を見なかったか?」


「猫? 知らないね」


「おっかしいなぁ… ここに逃げ込んだと思ったんだけどなぁ… 黒ブチの白猫」


「知らないっつってんだろ!」


「ホントにここに逃げ込んだんだって! あれ? ここ東か? 西か? それとも南か?」


女性はため息をつきながら立ち上がり、顎で入れと合図する。


左之助が部屋の中に入り、戸締りをすると、女性は障子を開けて部屋の奥へ。


左之助が土間で待っていると、女性は布団をどかし、畳を上げた。


するとそこには大量のおひつがおいてあり、女性はいくつかのおひつを外に出す。


「一番最近入ったのは?」


「最近? これだね」


「誰から仕入れた?」


「こっちは流れてきたもんを捌いてるだけさ。 どこの誰から流れてきたなんて知ったこっちゃないね」


「次の取引は?」


「知らないよ。 上が変わってから勝手に来て勝手に押し売られてんだ。 迷惑ったらありゃしないよ」


「上? 今までは清水が仕切ってたよな?」


「あんた知らないのかい? 2~3日前に清水の旦那どころか、組のもんみんな神隠しに合ったって噂だぜ?」


「なるほどねぇ… ありがとな。 こいつ貰っていくわ」


左之助はそう言うと、一番新しいといわれた米の入ったおひつを指さす。


女性は中に入っていた袋ごと左之助に渡し、小判と交換すると、ぐっと顔を近づけた。


「あんた気を付けなよ。 神隠しに合うよ」


「神隠しにあったら化けて出るわ」


左之助はへへっと笑った後に部屋を後に。


何事もなく門を潜り抜けた後、まっすぐに孤児の集まる寺へ。


誰にも何も言わず、袋を賽銭箱の上に置き、すぐに踵を返していた。

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