第1話
~1604年~
「よし!できた! かず、じいちゃんとおとっつぁんに持っていってあげて。落とさないようにね」
「は~い!」
出来立てのおにぎりの乗ったお皿とたくあんをお盆に乗せ、少女は慎重に歩き始め、母親と祖母は不安そうに見守る。
『落とさないように… 落とさないように…』
足で引き戸を開けると、母親と祖母は顔を見合わせ、小さくため息をついていた。
あぜ道に敷いてある茣蓙の上にお盆を乗せると、かずは田んぼに向かって大声を上げた。
「じ~ちゃ~ん! おっと~! お茶ができたよ~!」
「おー」
かずの声を合図に、二人の男性が田んぼを後に。
かずの後をついてきた母親と祖母も茣蓙に腰掛け、お茶を注ぎ始める横で、かずはおにぎりを頬張っていた。
「かず、引き戸はちゃんと手で開けるのよ?」
「ふぁ~い」
5人が太陽の下でお茶を飲み、おにぎりを頬張っていると、紺色の着物を着た、恰幅のいい男性が近づいてくる。
「あ! 呉服屋のおっちゃん!!」
かずは男性を見るなり、男性の元に駆け出し、その後ろを父親もついてくる。
かずへの挨拶もそこそこに、呉服屋の主人は父親に話しかけた。
「次の年貢当番、よろしくな」
「わかりました。 明後日お伺いします」
「年貢ってお米のことだよね?」
二人の会話に割り込むように、かずが声を上げると、呉服屋の主人は姿勢を低くし、笑顔でかずに話しかけた。
「そうだよ。 この村は人が少ないから、うちでみんなの分を預かって、当番になった人が領主さんのところに持っていくんだよ。 みんなが別々に、一気に持っていくと、領主さん困っちゃうだろ」
「そっか… でもね、うちのお米が一番おいしいよ!」
「そうだな。 あ、そうだ。 いっけね。忘れるところだった。 はいこれ」
呉服屋の主人は笑顔でそういうと、着物の袖から小さな包み紙を出し、かずに手渡した。
「4歳の誕生日おめでとう。 遅くなってごめんな。 かずの大好きな金平糖だよ」
「うわぁ!! おじちゃんありがとう!!」
「4歳になったらうちで勉強するって約束だったから、そろそろそろばんと習字の勉強もはじめような」
「うん!」
かずは目を輝かせ、包み紙を胸に抱き、喜びを表すかのように飛び跳ね続けていた。
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