太陽のにおい

のの

プロローグ

1598年。


先代、徳野川秀明将軍の時代が始まった。


徳野川秀明は、国民を馬馬車のように働かせ、重い年貢を強いていた。


重い年貢を強いられた人々は、生活のために強奪と殺戮を繰り返し、国内の至る所で合戦が起こる日々。


が、秀明は人々の生活など眼中になく、例え訴えを起こしても、待ち構えるのは処刑か合戦の二文字。


意見や陰口をする者はすべて処刑し、いつしか秀明の周囲にいた老中や御庭番たちは消え、ごろつきばかりが群がるように。


秀明には息子が5人いたが、末子である徳野川光家は、父が何をしているのか知らないまま。


詳細を知っていた4人の兄は、元御庭番の協力のもと、秘密裏に城外へ逃亡。


まだ幼かった息子の光家は、城外に出ることを許されず、父親が何をしてるかわからずにいたが、兄たちが逃げ出したことや、周囲に群がるごろつきを見て、不信感を抱くように。


秀明の側近から「そろばんができるから」という理由で、年貢の管理を強いられ、蔵で保管されていた年貢の多さを見て、不信感を更に大きくさせていた。


ある日、秀明に誘われ、光家が城下町に出た際、あまりの悲惨な惨劇に絶句していた。


街では当たり前のように強奪や暴力が行われ、町の至る所に遺体が転がり、生気すら感じられない人々が、黙々と遺体を河原へ運ぶ。


秀明はそんな城下町を見て、声高らかに笑うばかり。


光家は秀明の暴挙に反発の声を上げたが、翌日には光家の実母である側室が火あぶりの刑に処された。


呆然とする光家に、秀明は笑いながら言葉を投げる。


「お前の代わりじゃ」


このことがきっかけとなり、光家は誰にも知られないよう秀明暗殺を企てはじめた。


が、年貢は日に日に増えていき、一部を数えるだけも日が暮れる始末。


一人では限界があると感じた光家は、しつこく『年貢管理人』を要望すると、秀明はこれを了承。


光家と話すことが面倒になった秀明は、人材を自分で見つけるよう命じ、光家は以前、秀明が解雇した御庭番の一部を集めた。


米の管理をする『百姓奉行』


絹や織物を管理する『太物奉行』


大判小判や丁銀等の貨幣や、帳簿の確認、管理する『勘定奉行』


そして秘密裏に結成された、光家が心を許したものだけが選ばれる『隠密』


隠密は、失敗が許されず、いかなる者にも隠し通さなければならず、集めた情報は必ず正確でなければならない、暗殺計画の為に作られた組織。


バレたら切腹、拒むようであれば打ち首することを約束されていた。


時には町人のように振る舞い、時にはごろつきのような行動をし、隠密は情報収集に努め続けていた。


この隠密の情報収集のおかげで、秀明の隙を見出したのが1600年。


遠方で合戦が起こり、「反対勢力が城に向かっている」と聞きつけた秀明は、籠城を提案したが、光家がこれに反対。


「蔵の食糧はあとわずか。 井戸に毒が撒かれたとの噂がある」と告げ、秀明が選んだ勘定奉行に井戸水を飲ませると、勘定奉行は血を吐いて倒れこんだ。


秀明はごろつきたちと逃亡を図るも、道中で隠密の奇襲に合い、側近のごろつきたちをも一人残らず抹殺。


わずか2年だったが、永遠の地獄のような戦時代を終えていた。


4人の兄たちは、光家の偉業をたたえ、光家を将軍にすることで一致団結。


光家を将軍に置き、新たな時代を迎えようとしていた。


わずか8歳の光家は、自分一人で国を指揮できないと思い、東西南北に分けた領地を4人の兄弟に仕切らせ、自分は総指揮をとるように。


秀明を反面教師にし、 『安心、安全、皆平等』のスローガンを掲げる。


長きに渡る戦時代とは正反対の、光家が掲げた政策に、最初は戸惑っていた国民だったが、皆が安堵し、豊かな国作りに邁進。


光家は秀明が解雇した老中たちの一部を再度集め、 奉行達にはそのまま、様々な仕事を与えていた。


徐々に街は活気にあふれ、皆が笑顔で暮らす国へと変化を遂げる。


が、また悲劇が起こることを恐れた国民からの強い要望で、国民の相談や、町の安全監理をする『町奉行』が設立。


かつて活躍をしていた隠密の存在は、公になることはなく、その姿を消していた。


一度は姿を消した隠密だったが、月日を追うごとに、町に闇が差し込むようになり、徐々にその形を成し始める。


それと同時に、かつては消え去っていた隠密の姿も、確かなものに変わっていた。

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