第3話

太陽の日差しが差し込む中、草むらに寝転がり、川のせせらぎに耳を傾けている男がいた。


流れる雲を眺め、口に咥えた葉っぱで風を感じるかのように小さく動かす。


月代を剃り上げることもせず、前髪を後ろで束ねているだけ。


草むらに寝転がり、流れる雲を眺めている男性を見て、細身で切れ長の目をした総髪の男性は大きくため息をついた。


「こんなところにいらしたんですか… ったく…」


呆れかえった男性が、寝転がっていた男性の横に座る。


寝転がっていた男性は顔だけ動かし、呆れかえった顔を見て鼻で嘲笑うだけだった。


「奥様がお呼びでしたよ」


「またか…」


「ええ。 毎度毎度、勘弁してくださいよ…」


「そりゃこっちのセリフだ。 月代を剃れっつったり、髷を結えつったり、挙句の果てには見合いしろ。 いつの時代だっつーの」


「…そういえば、また百姓が斬られましたね」


「また? どこだ」


「京です。 賊の仕業としているようですが… 先月も薩摩で同様の手口がありましたし、やはり左之助様の言う通り、どこかの大名が手引きしているのかもしれません」


「そうか… 右京、動けるか?」


「その前に、左之助様も動いてくださいよ。 奥様からお小言を言われるのは私なんですから」


「えー… お前が行けよ。 俺のお付きだろ?」


「駄目です。 行きますよ」


右京がスッと立ち上がると、左之助も渋々立ち上がり、すぐ脇に置いてあった日本刀を腰帯に差し込む。


左之助は口に咥えていた葉っぱをペッと吐き出した後、短く切り揃えられた後ろ髪をわしゃわしゃと掻き大きく伸びをする。


「しゃーねーから帰っかぁ」


大きなあくびをした後、ダルそうに歩き始め、右京は小さく笑った後、左之助と肩を並べて歩き始めていた。



数十分後、二人が大きな屋敷の前に着くと、二人の門番に軽く挨拶をし、門の中へ。


門道を通り抜け、右京が玄関の引き戸を開けると、そこには紫色の着物を着こなし、鬼の形相をした女性が立っている。


左之助は無言で引き戸を閉め、右京の両肩に手を置いた。


「後は頼んだ」


「何を頼むんです?」


背後から聞こえた怒りの声に、左之助は恐る恐るゆっくりと振り返る。


「あっれ~? 母上、いらっしゃったのですか! 気づきませんでしたぁ」


「先ほど目があいましたが?」


「えー? 本当ですか? おかしいですねぇ。 私には何も見えなかったでございまする。 ってことで」


左之助がすぐさま門のほうを向くと、首根っこをがっちりとつかまれ動けないでいた。


「今日という今日は逃がしませんよ」


「…はい」


母親の圧に負けたかのように、蚊の鳴く声で返事をした後、左之助は家の中へ。


右京は周囲にばれないよう、小さくため息をつくと、ゆっくりと家の中に入り込んだ。

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