第3話 事件現場
一週間前までは退屈な日常が広がるだけだった、何の変哲も無い小さな街。しかし今は新聞の一面に、連日のように聞くもおぞましい事件がデカデカと取り上げられている。
連続猟奇殺人事件。
被害者は四名。共通点を見つける事すらむずかしい。皆、年齢も職業も性別も異なっている。ただ一つ共通している点は、その死体の腹は切り裂かれた後、大量の石を詰め込まれて再び縫い合わされていた。
噂。
街には今、事件に対する噂が飛び交っている。無理も無いことだ。今まで何の変哲も無い日常が流れていた小さな街に、突如飛び込んできた怪事件。これで噂が立たないほうがおかしい。
曰く、犯人は精神病院から抜け出したサイコパス。もしくは、その残虐性から、人間では無く悪魔の仕業であるとか・・・・・・。
そして、その犯行の手口から、犯人はこう呼ばれた。
”血まみれの赤ずきん”……と
「……赤ずきん。ねぇ」
ユキオは冷めた目で事件現場を見回す。
最初の犠牲者、大神真理子が殺された裏通り。街灯の類はほとんど無く、夜中には真っ暗になるだろう。
事件後の数日は野次馬でごった返していたが、今はもう誰もいない。
道路には掃除しきれなかった血の跡が僅かに残っている。
少し冷える。
体を通り過ぎる風に身を震わせ、ハンカチを口に当てて小さく咳をする。
口から離したハンカチには、べっとりと血が付着していた。
(ふふふっ、あまり時間が無いみたいだねプリンセス)
どこからか声が聞こえる。
ドロリと甘い。心をとろかすようなテノールヴォイス……。
「……うるせぇよ」
ユキオは口元の血をぬぐいながら、ボソリと呟いた。
しかし寒い。
今は春だというのに、こんなに冷えるものだろうか?
…………否。これは寒すぎる。
先ほどまで真昼だったはずなのに、気が付くと日はすっかり暮れて通りは夜闇のヴェールに包まれている。
吐く息が白くなるほど外気は冷え込み、街中だというのに車の通りすぎる音すら聞こえない。
(どうやら当たり……みたいだね)
そして、ソレはやってきた。
「こんばんはオオカミさん。私と遊びましょ」
赤いずきんを被った幼い少女。
手には異様な程に大きなハサミ……。
ニッコリと天使のように微笑む少女からは、濃厚な血の香りがしたのだった。
◇
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