First cup 6滴目

僕は彼女の元へ戻ると、アンフロパイを差し出した。

「これ、サービスです。」

「え...いいの。」

彼女は少し驚いていた。

「はいっ、どうぞ召し上がってください。」

僕は彼女がアンフロパイを食べ始めるのを確認して話し始める。

「見た目が傘に見えてまるで凍っているかのように涼しいのを届けてくれる、アンブレラフローズンパイ、略してアンフロパイです。」

「ふふっ、可愛いね、アンフロパイ。」

「可愛い...ですか。」

「うん、可愛いよ、味も最高だし。」

「ありがとうございます。」

僕はアンフロパイを見て、あることを思い出した。

「先輩、心の傘ってあると思いますか。」

「心の...傘...。それって目に見えるのかな。」

先輩が深く考えながら聞いてくる。

「もちろん目に見えないです。でもあると思うんですよね、心の傘。」

思い出を語るかのように僕は続けていく。

「僕はさっきマスターに雨が乾いたら虹が綺麗に見えるって言われたって言ったじゃないですか。」

彼女は、「うん、言ってたね。」と相槌を打ってくれる。

「でも、心に雨が降ってて傘さしてなかったら風邪ひくと思うんですよ。だから、自分の中の心の傘を差して、雨を防がないと行けなくて。でも、余裕が持てない人は心の傘をどこかに置いてきちゃってて。だから他の人の傘に一緒に入ったりして、雨を防げばいいんです。きっとまた笑えるようになれるから。だから、俺に出来ることがあればなんでも言ってくださいね。」

そういうと彼女は、

「素敵だね、心の傘。私はその傘、持ってないみたいだけどね。」

そうからかってくる。

「あ、いや、そういうわけで言ったわけじゃ。」

彼女は昔のようにあははっと声を出して笑うと、

「ごめんごめん、冗談だよ。でも、私、これから少しづつ頑張っていくから、姫くんの傘に一緒に入らせてね。」

という。あぁ、これだからこの人は。

「ええ、もちろんです。僕にできることならなんでもしますよ。今度は僕が先輩に傘を差す番ですね。」

僕はドキドキしているのを隠すように、笑顔を彼女に向ける。

「今度はってどういうこと。」

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