First cup 4滴目
「大丈夫なんて簡単に言わないでよ!」
彼女の声が部屋に響き渡る。立ち上がり僕の側まで歩いてきて、僕の胸ぐらを掴むと彼女は泣きながら続けた。
「姫くんに何がわかるの、私はあの日以来死にたくて死にたくて何回も自殺未遂とかしたけど死ねなくて、早くこの苦しみから逃げたいのに、それでも頑張って生きてるのに、それなのに、自分のやりたいこと仕事にして、夢を叶えて、幸せな人生送ってる君に何がわかるの!大丈夫なんて軽々しく言わないでよ!」
声にならない悲痛な叫びが僕の心に突き刺さる。彼女は声を上げて泣きながら膝から崩れ落ちた。僕は自分の過去を隠してきた。今までも、そしてこれからもそうするつもりだった。しかし、場面が変われば対応も変わる。ケースバイケースと言うやつだ。今の彼女にできる事はこれくらいなものだろう。僕は、泣き崩れる彼女に向けて話し始める。まるで今の彼女と昔の自分とを重ね合わせるかのように。
「先輩 、僕ね、一時期心的外傷後ストレス障害、所謂、PTSDを患ってて、自殺未遂が中毒化してたんですよ。」
そう言うと、彼女が涙を流したままのクシャクシャの顔でこちらを見つめてくる。僕は床に
「僕にも兄がいるんです、というかいたんですよ。二つ年上の兄が。成績優秀、スポーツ万能、オマケにイケメンと来て、もう、周りからの信頼が厚い兄貴でしたね。普段から僕と兄貴は比べられて育ちました。学校の先生や、周りの友達、更には親にも。そんな中で兄だけはいつも僕と対等に接してくれていました。僕は兄のそんな優しさが好きで小さい頃から兄の真似をして生きてきました。そうやって、高校も同じところに入学できて、ちょうど入学式の日のことでした。兄と一緒に朝から歩いて学校に向かっていたんです。僕の家から少し歩くと車通りの大きな十字路があって、僕らは信号待ちをしていました。高校同じとこ行けてよかったね、これから一緒に頑張ろうな、そんな会話をしていたんです。そんな時周りの人達の叫び声が聞こえて正面を見ると、大型トラックが僕たちの方へ突っ込んできたんです。居眠り運転だったみたいで、気づいた時にはもうぶつかる寸前で。僕は足がすくんで動けなかったんです。ダメだ 、ぶつかる。そう思った時でした。僕の体は突き飛ばされて地面に打ち付けられました。兄が僕を突き飛ばしたのだろうとすぐに予測が着きました。僕が体を起こして兄の姿を探すと、兄は僕の目の前で血だらけで倒れていました。必死の思いで駆け寄って兄に声を掛けました。そしたら兄は、僕に向かって、ごめんな、高校生活一緒に過ごせそうにないや、もっと一緒に居たかった、そんなことを言うんです。僕は、兄の名前を叫びながら、死なないで、そう何度も何度も繰り返しました。兄は最後に、お前の兄になれて良かった、お前が弟で幸せだった、生まれてきてくれてありがとう。そう言って一筋の涙が頬を伝い、僕の腕の中で冷たくなっていきました。」
彼女は「嘘...。」、そう言いながら口元を手で隠していた。僕は、話を続ける。
「僕はその日以来、生きる意味を見失いました。唯一の心の支えであった兄が亡くなって、僕はもうどうしていいかわかりませんでした。そして来る日も来る日も自殺未遂を試みて、兄の元へと行こうとしました。でも、その度に誰かに見つかったり、障害物に妨害されて、死ぬことは出来ませんでした。
まるで、兄がまだ来るなって言ってるみたいでした。そんな時に出会ったのが、このファミリアだったんです。」
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