First cup 3滴目
ーバタンー
重い木の扉を閉めて、僕と彼女は向かい合わせになった椅子にそれぞれ腰かける。座るとすぐに、彼女からの質問が飛んでくる。
「姫くん、仕事って何するの?」
彼女からの質問を僕はテンプレートどおりの自己紹介で回答する。
「じゃあ、改めまして、私、この晴心喫茶ファミリアのカウンセラーをしています、
彼女は大人らしい上品な笑い方で、ふふっ、と笑うと、
「姫くんは夢、叶えたんだね。おめでとう。」
という声をかけてくれる。僕は、まだまだスタートラインに立っただけですよ、と返して、彼女に思ったことを尋ねてみる。
「先輩、もしかしてですけど、先輩って
男性恐怖症。その予想に至るまでさほど時間はかからなかった。マスターが咳払いをして僕を呼んだ時と、僕が彼女をこの部屋に連れていこうとした時、彼女は、大きく体を震えさせて身を引くような仕草を見せていた。大学生の頃の彼女は、まっすぐと
「もしかしてですけど、前の職場でなにかあったんですか。」
そう言いきった時、彼女の様子が変わった。拳を震わせ、全身で呼吸しているかのように呼吸が荒くなる。僕は彼女に駆け寄り声をかける。
「先輩、大丈夫です!ここには先輩を危険にさらす人いないから!ほら、ゆっくり呼吸してください。」
三・四分が経過すると、彼女の呼吸も落ち着いてきた。相当苦しい思いをしてきたのだろう、まだ少し震える手でテーブルに置いてあったアイスコーヒーを一口流し込んだ。珈琲飲むと落ち着くんだ、とわざとらしい嘘をついて、彼女は静かに語り始めた。
「私ね、大学卒業して直ぐに、東京の洋菓子屋で働き始めたの。親に猛反対されたけど無理言って上京させてもらってさ。一週間くらい経った頃かな。常連さんらしいお客さんがケーキと一緒に私の連絡先聞いてきたから、ごめんなさい、そういうのはご遠慮願いますって断ったの。でも、その次の日から毎日来るようになって、怖くなって、次迷惑行為したら警察に通報しますよって警告したの。そしたら、その日の仕事終わりに尾行されてて、住所がバレちゃって、次の日家に帰ると、ドアの前にその人がたっててね、強引に腕とか掴まれて、胸触られたりして、何とか逃げ出して交番まで駆け込んでその人は捕まったんだけど、それ以来男の人が怖くなっちゃって。誰にも助けを求められない状況だったのがトリガーにもなったんじゃないかって担当のお医者さんにも言われたの。」
全てを語り終えた彼女は震える体を必死に腕で押さえつけて隠そうとしていた。
「先輩...。」
僕はつい、カウンセラーとしてでは無く、一人の後輩として彼女に声をかけてしまった。
「先輩、よく頑張りましたね。苦しかったですよね。大丈夫ですよ、僕も一緒に...」
大丈夫その一言がついこぼれてしまう。
「大丈夫なんて簡単に言わないでよっ!」
彼女の声が部屋に響き渡った。
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