リコリス・リコイルとGUNSLINGER GIRL(ガンスリンガーガール)

たけや屋

リコリス・リコイルとGUNSLINGER GIRL(ガンスリンガーガール)

 なんかこのアニメとあのアニメ、似てない?

 と思ったことはありませんかね?

 自分はあります。


 最近話題のアニメ・リコリス・リコイル(以下リコリコ)と、

 名作漫画・GUNSLINGER GIRL(以下ガンスリ)が、

 作風は全く違うのに、なんか妙に近しいものを感じるな? と。可愛い女の子がごつい銃を手に現代社会の中で戦う、っていうコンセプト部分がかぶるんだろうかと。


 で、その直感は正しかったようです。リコリコの監督さんがこう言っている記事に、ある日出会いました。


 ★ ★ ★ ★ ★


 引用:animate Times

 夏アニメ『リコリス・リコイル』監督 足立慎吾さんインタビュー|千束とたきなの2人が少しずつ仲良くなっていく様を見てもらいたい【連載 第3回】


【足立:アニメを見て暗い気分になったりするのは、今はあんまり求められていない気がするかなって…。自分はDVD買うくらい『GUNSLINGER GIRL』が好きなだけに、そのフィールドでは勝てないと思いましたし、ポイントをずらしたほうがいいんじゃないですかねっていう話は初日にしたと思います。】

 :引用終わり。


 ★ ★ ★ ★ ★


 コンセプトが同じでポイントをずらした作品ならば、こりゃもう見るしかないわけですよ。そして先ほど全話視聴完了しました。

 いやあ面白かったですね。アクションあり、人情あり、お笑いあり、シリアスあり、社会風刺あり、そして最後はハッピーエンド! という全部盛り。戦うのは女子高生だけかよ! と思っていたら終盤にきっちり男子版リコリスの存在が明かされたり。


 しかし、しかしですよ。

 自分としては今回リコリコを完走したことにより、なぜかガンスリを初めて読んだときの気持ちが脳裏をよぎったのです。

 10年前に完結した作品が、今も鮮明に、心の中に残っていたのです。そのことにびっくりしました。


 古きを知り、新しきを知る——の逆。

 新しきを知り、古きを知る——という心境でした。まあガンスリは古いってほど古い漫画じゃありませんが(10年前の作品は古くないですよね?)。


 ではまずリコリコの足立監督が語るとおり、リコリコとガンスリの重なる部分とずらされた部分というのを見ていこうかと思います。


★ ★ ★ ★ ★


 リコリコ(Lycoris Recoil):リコリスとは、日本政府公認・極秘治安維持組織DAディーエーに所属し、治安維持のため暗殺をしている少女たちのこと。現代日本社会で警戒されないよう、制服女子を実働部隊にしている。メンバーの少女たちは戸籍のない孤児。


 GUNSLINGER GIRL(ガンスリ):義体ぎたいとは、イタリア首相府直下・社会福祉公社に所属し、治安維持のため暗殺をしている少女たちのこと。現代イタリア社会で警戒されないよう、女子小中学生を実働部隊にしている。メンバーの少女たちは社会から見捨てられた存在。


 ★ ★ ★ ★ ★


 このように、日本とイタリアの違いはあれど、コンセプトはかなり近いんですよね。

 しかし作風は真逆。

 リコリコの足立監督が【アニメを見て暗い気分になったりするのは、今はあんまり求められていない気がするかなって…】というように、リコリコは最後まで明るくポジティブなまま幕を終えました。


 対するガンスリは、そりゃもう血みどろですわ。

 ガンスリの殺し屋役である義体の少女たちは、いずれも悲惨な境遇ゆえに家族からも社会からも見放された存在。そんな少女たちを薬で洗脳し、人体改造を施し、担当官男性に対する絶対の忠誠を誓わせた上で暗殺に投入するという非常にダークな設定。

(洗脳の程度の強弱はありますが、基本的に義体少女は担当官に逆らいません)


 ある少女は、一家惨殺事件唯一の生き残り。片手片足片目と子宮を失っており、本人は自殺を望んでいた。

 ある少女は、家族に見捨てられた全身マヒ患者。

 ある少女は、人身売買組織で殺人スナッフフィルムの撮影中、救助された。

 ある少女は、保険金目的で実の親から車で轢かれた。


 などなど、月刊コミック電撃大王という掲載誌にしては少々ヘヴィすぎる境遇の数々。

 ガンスリはこのような重い設定ですが、最初の方は可愛い女の子を前面に押し出していました。


 画面の比重も女の子中心だったり、年ごろの女子らしい可愛い悩みがあったり、パンチラなんかも時々あったり——その重厚な作風は爪を隠していたのです。

 しかし話を追うごとにその独自性は本領発揮していきます。


 イタリア南北の経済格差。それに起因するイタリア北部独立運動。その中心的存在である反政府組織・五共和国派パダーニャと社会福祉公社の死闘。極左と極右の暗躍。公職追放された者の意地。政府組織同士の血で血を洗う対立。国内にはびこるマフィアたち。

 そんな現代イタリアの社会情勢が見事に織り込まれたストーリー。


 美少女目当てで雑誌を読んでいた当時の読者たちはびっくりしたでしょうね。美少女漫画の姿を借りた、ガチの社会派サスペンスがそこにあったのですから。

 もちろん暗殺が主体となる漫画ですから、メインメンバー全員生存なんて甘いことはありえません。人体改造された義体の少女でも、拳銃で目玉から脳天を撃ち抜かれれば死に、対物ライフルの直撃を受けても死ぬ。そういったリアリティが描かれていきます。


 そして最終決戦である新トリノ原発占拠事件ではもうバンバン死にまくる。籠城戦をするテロリストたちが、必死の抵抗を見せるんですから。そこを主人公補正で無傷のまま鎮圧するなんてありえません。

 ここでは初期からのメインメンバーがどんどん散っていきます。死ぬのは義体の少女だけではありません。その担当官も最前線に出て、命がけで戦い、そして志半ばで命を落としていくのです。


 そうしてテロを鎮圧しても、待っているのは身内の争い。利用価値のなくなった社会福祉公社を解体するため、軍警察が突入してくるのです。

 非道ひどい話じゃありませんか。

 でもスゴい面白いんですよ、この漫画。


 ◆ ◆ ◆


 今まで書いたようにヘヴィでシリアスなストーリーが見事ってのもありますが、個人的には悪役が魅力的ってのが大きいんじゃないかと思います。


 とある爆弾魔コンビがテロ組織に爆弾を渡す約束をします。ですがそのテロ組織は爆弾を【スペイン広場】に仕掛けるというのです。スペイン広場はイタリアの象徴ともいえる場所。愛国心を持ち、イタリアのために仕方なくテロ行為をしている人間なら、そこを破壊なんてできるわけないのです。

 爆弾魔コンビのうち、男の方が訊きます。

「…いいのか?」

 女の方が答えます。

「もし本気だったら…偽物でもくれてやればいいわ」

 このふたりは物語前半の宿敵でもあります。最後まで美学を貫くさまは見事としかいえません。


 また別の敵も。こちらは物語前半のボス的存在です。

 とある人物を拉致するため、ウフィツィ美術館の中で尾行を続けるボスとその部下。

 美術館内で、部下が携帯電話を手に取り通話しようとした瞬間。ボスは部下を平手打ちします。拉致実行犯として、目立つ行為は絶対厳禁であるにもかかわらず。

 そしてボスは、自分よりガタイのいい部下に指を突きつけて言うのです。

「ここはウフィツィ美術館だぞ 貴様イタリアの宝を侮辱するつもりか!?」

「ちゃんと伝えろよ 美術館や教会内ではドンパチやるなと」

 仕事の達成よりも、文化へ敬意を払うことの方が優先される。

 このボス的存在も最後まで美学を捨てませんでした。テロは絶対に許されない行為ですが、しかし理想のために行動する人間は美しいのです。


 このようにただのチンピラではない、美学を持った悪役が登場するからこそ、ガンスリは魅力的なんじゃないでしょうか。


 ◆ ◆ ◆


 しかしリコリコの足立監督は思ったでしょう。

 ガンスリを現代日本でやりたくても、この設定は日本向けではない、と。あれをそのままやったらリアリティが無いと思われる、と。

 日本とイタリアはそれほど社会情勢が違います。


 日本でも最近は格差社会格差社会といわれていますが、だからといってテロ攻撃が頻発するほどの格差はないのです。国際平均で見れば日本はまだまだ平等社会です。

 政府とテロ組織が血みどろの死闘を繰り広げる——という設定も日本だとどうでしょうか。


 日本にもかつて凶悪なテロとの戦いがありました。

 特に有名な事件名を挙げますと【あさま山荘事件】と【オウム真理教事件】じゃないでしょうか。

 しかしですね、日本では敵対組織を皆殺しなんていうことは起こらなかったのです。それを実現できる、自衛隊という組織を持っていたにもかかわらず。警察による逮捕を何よりも優先したのです。それが日本人特有の軍事アレルギーゆえなのかはわかりませんが。


 あさま山荘事件でも、有名な鉄球作戦で壁を破壊しました。そして犯人を全員生きたまま逮捕したのです。しかし自衛隊を投入できたなら、死者を3名も出すことはなかったでしょう。


 そしてもうひとつ——というよりひと塊の凶悪事件【オウム真理教事件】ではどうでしょう。

 この事件では歴史上まれな化学兵器テロである【地下鉄サリン事件】も有名ですね。相手は化学兵器を自作でき、ロシアや北朝鮮で軍事教練を受けたガチの武装テロ組織です。


【警視庁140年の10大事件】の中で堂々の第1位というところからも、この事件のヤバさが伝わってくるでしょうか。それこそガンスリ作中のテロ組織に匹敵するか、それ以上です。


 しかしここでも自衛隊はほとんど活躍の場が与えられませんでした。

 出番があったのは、毒ガスサリンの除去、警察への防護服の提供、地域一帯の封鎖など、あくまでサポートが中心でした。日本の歴史上トップクラスにヤバい武装勢力が相手なのに、自衛隊は武力出動できなかったのです。


 以上のような実例を考えると、ガンスリでやったような軍事兵器マシマシのヘヴィなストーリー展開は、日本が舞台のリコリコでは実現できないだろう——という判断なのでしょう。

 なので、現代日本向けにもっと明るく、女子を前面に出し、できるだけヘヴィさを失わせず、しかしコメディも混ぜ込み、可能な限り誰も死なせずハッピーエンドを迎える——。


 と、このような紆余曲折を経て、令和の傑作リコリコは誕生したのでしょう。

 似たようなコンセプトで、ここまで違うものを作り上げるその手腕。誠にお見事でした。ここに/yellエールを送ります。


 ◆ ◆ ◆


 みんなリコリコ見よう!

 テレビ放送は終わったけれど、各社動画配信サイト&アプリで絶賛配信中!

 そしてガンスリ読もう!

 コミックスはKADOKAWAから全15巻絶賛発売中&各社漫画配信サイト&アプリにて好評配信中!

(自分はこれら版元の回し者じゃございません)


 ちなみに自分がガンスリで1番好きなのは、

 最終巻、生き残ったジャンさんがとある動画を見て「1ドル寄付しといてくれ」のコマ。

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リコリス・リコイルとGUNSLINGER GIRL(ガンスリンガーガール) たけや屋 @TAKEYAYA

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