第9話・頑丈さのテスト。
俺は入札者3人と合流してキャンプ場で広げた22テントの中にいる。
何というか、かんというか。3人ともこんな小さなテントに100万円をポンと出すと思える人たちだった。普通の者では無い空気がプンプンとしている・・・
彼等(一人は彼女だったが・・)の車に並んだ俺の愛車ボンゴが霞んでいるし・・・でもね、ベッドを積んだ車内は一番寝心地が良いだろうし、仕事だってこなす逞しい車なんだぞ、っと心の中で見栄を張ったのは内緒だ。
「SNSでツルギさんから質問がありましたね。どうです遮音性は?」
「あっ、では、ジッパー閉めてみますね」
今日は土曜日の昼間だ。広いキャンプ場には家族連れ、大人や子供達の歓声がそこそこ聞こえている。ツルギさんが入り口のジッパーを閉めると、
・・・うん。見事に音が消えたね。
テントにこの遮音性は微妙だな、外の危険を知るためには無い方が良いかも。それはテントに指示すれば出来る様な気がするが、まだ試してはいないのだ。
「・・・」
「・・・」
「開けるね」
入り口を開けると、また賑やかな歓声が聞こえる。
「・・・閉めるね」
再び無音。
「良く解りました。あの動画通り、遮音性は抜群ですね。ならば保温性も期待出来ますね。私の購入条件は、説明書きに書かれていた重さ・収納サイズ・耐水耐風性と強度ですね。実は遮音性や保温性は二の次です。シングル・ウールでそれまでは期待していませんからね。あの動画が虚偽の無いものでしたら、強度以外の条件は既に満たされています。その点如何ですか?」
と、姿に似ずに知性的な山道さんの言葉だ。
「あの動画が性能的に高く見せていると言う事はありません。逆に高性能を隠すのに苦労したくらいですから。では残りの強度をお見せしたいと思います。その前に、あの動画で外の風景を写しているときに強風で折れた枝が飛んでくるのが写っていたと思いますが、覚えておられますか?」
「覚えていまっす!」
「私も見た記憶があります・・」
「ええ、私もありますが、念のためにもう一度見ましょう」
と、キャンズキさんがスマホに動画を出して、皆で鑑賞会が始まった。
「あ、ありました。ちゃんとナレーションも入ってますね」
「ですよね。しかし凄い勢いで飛んで来ていますね」
「ひょっとして、これって結構太い枝なのでは?」
「はい。翌朝テントの横に転がっている枝を見て解りましたが、直撃した枝はかなりの大きさでした。私は、動画にある通りテントの中に居たのですが、衝撃が殆ど無かったので、気にしていなかったのですが」
「・・・」
「・・・」
「では、あの枝はどのくらいの大きさでした?」
「直径20cm、長さは2mくらい、生木ですので重さは、持ち上げるのは力が要りました、20kg位かな」
「えっ、それってかなりの衝撃があったのでは?」
「と思いますが私は気が付かなかった。もっともあの夜は台風直撃でもの凄い荒れようだったのですが」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「それでは試して見ましょう。誰か私と一緒に外に出て下さい。あ、皆さんで交代で、です」
「ではまず私が出ましょう」
や・・まみちさんと外に出た。ツルギさんとキャンズキさんは中に留まって貰う。
「山道さん、これが、枝がぶつかった跡です」
「うん、微かに黒くなっていますね」
テント横の真ん中付近に跡が残っている。この時のためにわざと残していたのだ。
「ええ、まさか、それで!」
「そうですよ。見ていて下さい」
俺が持って来た1mほどの角材、太さは6cm角ほどを取り出すと、山道さんが俺の意図を知って驚いた。
「ふん!」
角材をテントに叩きつけるとボヨヨンと弾んだ。さらに二撃・三撃。ボヨヨン、ボヨヨンとテントは揺れるけれど傷はつかない。
「驚いた・・・」
その跡を触って確かめる山道さんが呻くように言った。普通のテントでは軽く裂けるかポールが折れるほどの衝撃だろう。ところが22テントでは、ボヨヨン、ボヨヨンと軽く弾けるだけなのだ。
「強度。ご納得いただけたでしょうか?」
「はい。あり得ません・・・」
「arienn22テントですから」
「・・・」
中にいた2人に衝撃を聞くと、
「テントが揺れたので風か何かだと思っていました」
「私は、外でお二人が揺すっているのだと・・・」
「ぎょええ・・・」
「まさか・・・」
外でテントを角材で殴る光景に二人は絶句している。今度は山道さんが中に入っている。でもね、俺もさすがにフレームに打撃は試せなかった。たぶん大丈夫だろうけど、フレームが折れたらアウトだからね。
「決めました。是非このテントを譲って下さい」
と、山道さんがバックから札束をだした。私も、私もと札束がポロポロと3ヶ出て来た。どれも紙封つきのピン札だ。
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