第6話・オークションに出品


 ネット・オークションに出品した。


 果たしてこんなあり得んテントを世に出して良いのか、とまず悩んだ。悩んだが、そこは当初の予定通りに売ることにした。何と言っても工事代金の変わり、つまり仕事の延長なのだ。


 手元にある「たまこれテント」は22・33・44が5つずつ。その内22ひと張りは俺用だ。詳細は22が2/3人用、33が4/6人用、44が8/10人用だな。


 まず、定価を設定するかしないか考えた。


 定価があれば入札する上で参考になる。だがこのテントの場合は難しい。何たって魔法のテントだ。あるだけの売り切りで生産も入荷の予定も無い。敢えて付けても50万・100万とかトンデモナイ価格になる。


「よし、定価設定は無しだな。次は・・・名前だ」


 「たまこれ」という言葉は使いたくない。「魔法のテント」「マジックテント」とか魔法を匂わせて普通の物では無いとアピールすべきだろうな。

 ええと、う・う・・・・・・ん。


素直に「あり得んテント」ってのはどうだ?


 まず収納寸法と重さがあり得ん。

市販の最軽量テントは2人用で500ccのペットボトルぐらいで900g程か、対してたまこれ22は、10cm×10cm・厚さ1cm・100gだ、あり得ん。


 次にその軽さでありながら、耐水性・耐風性に丈夫さがあり得ん。保温性や遮音性も凄い。しっかりと換気できて中は平和そのものなのだ。


 その他のあり得ん事。

詠唱(と言っても、最初おじさんの言った詠唱は格好つけていたと判明)やその恐るべき強度、・癒し効果?などはあり得ん過ぎて言えん。これは引き渡すときに直接伝えるしか無い。

 あっ、引き取りに来られる人限定だな。移譲もあるし注意事項が半端無えし。



 と言う事で、出品した。




- Arienテント22 -

 たった100gの脅威の軽さで2m×2m・高さ1.5mの快適な空間。驚くべき設営の速さと耐水・耐風性と頑丈さです。まさにあり得ないほど究極のテントです。


台風直下のテスト動画はこちら→Arien.Tento22.mp3


 新古未使用品・返品不可・補償無し。製作国・制作者・材質など不明。

現品のみ、売り切れご免。手渡しのみ(場所は追って指定します)。

なお高額商品ですので入札終了後、上位3名様で現物確認後に購入の最終判断をして頂きます。その時点で現金引き換え。


 出品者 yamajin スタート金額5万円、出展数3、オークション期間は3週間。上限設定100万円(非表示)



 いやはや、我ながら怪しい出品だ。だがハンドルネームは、ちゃんと許可を貰った物で運営サイドは俺の住所氏名が分かっているのだ。


結局テントの名前を「あり得ん」から「Arien」にした。エイリアンに読めないことも無く、異次元を感じる名前だ。




 当初1週間ほどは、何人かのブックマークが付いたのみだ。入札者は無かった。こんな怪しい商品においそれと5万円ポチするのは勇気がいるだろう。いや・勇気じゃないな、理性が邪魔するか・・・


 テスト動画はそこそこ見られている。Yチュ-ブからのアクセスが増えているな。でもまだ入札は無い。

 気長に待つとするか。

 その間、俺は33テントと44テントを作業場で設営してテストをしていた。それで解った事が幾つかある。


 シリーズ最大の44テントは、当然の様に家みたいなテントだ。それが収納サイズは僅か10cm×10cmの厚み2cm・200gだ。ほとんどスマホサイズだよ、あり得んを通り越して、信じられねえ--。

それで10人が寝泊まり出来るなんて、あり得---ん。って、今更か・・・


 33テントもそうだが、それ程のサイズになると両手で持って引っ張って拡げる事は無理だ。最初は一隅だけを固定して拡げていたが、おじさんの言葉を思い出した。

”固定、解除・移譲の他にも指示は可能。イメージが第一”


 俺は畳んだ44テントを場所の中央において、広がったテントを想像して唱えた。


「設営!」

「おおおおおー」

 テントは一挙に膨らんで、巨大なテントが視界を埋め尽くしたのだ。44テントの高さは頂点で2.5mもあった。手をめいっぱい伸ばしてやっと届く高さだ。


「これ、マジ暮らせるだろう・・・」

 家具を運び込めば暮らせる大きさだ。これより狭いワンルームなど山ほどあるだろう。


 33テントは高さ2m、センター付近では余裕で立って歩ける。3m四角は広い畳3枚ほどだ。

 畳を敷けば、ちょっとした茶室・・・そこで、


「畳敷!」

 勿論、畳は出て来やしない。まあ言ってみただけだ。


えっと、” 但し大きな変更は材料が必要”か、畳を買って来て敷けば良いのか・・・

 ん、って事は材料さえあれば出来るのか?


 じゃあ、前室とか出来るかな。やっぱり靴置く所が欲しいからな、テントの中に泥で汚れた靴を置くのは抵抗がある。

前室の分だけ室内を小さくして、前室の床は要らないから、その材料で前室との区切りを作る・・・

 そのイメージを頭に描いてっと、


「前室作製!」

「おう、出来た!!」マジかよ・・・。でもあれ、室内側のジッパーが無い。って材料が足りなかったのだな。手芸センターでジッパーだけ買ってきたら出来るのかな、・・・それより古いテントを潰して材料にするか・・・


 その時、”ピロピロリン” とスマホが鳴った。


オークションサイトからの自動メールだ。サイトを開いて見ると「一件入札されました」となっている。


「キターー!!」


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