第5話・工事終了!


 台風直下の山でのテントテストの結果は、『あり得ん×10』だった。本当にとんでもなくあり得んテントだ。


 あのテスト山行きの翌朝、台風一過の素晴らしき朝が待っていた。あんな日に山に入る者はいないので、俺の貸し切り状態だった。

 天空には雲一つ無く、水平線から上がる朝日の見事さは思わず手を合わせる程の神々しさだったのだ。そして俺の体調もすこぶる、近年に覚えが無いほど良かった。何となく体から力が溢れてくる感じだ。


 朝日が上がってテントに戻って驚いた。テントの脇に太い木の枝が転がっていたのだ。昨日飛んで来た木の枝は、俺の太股ほどもあり持ち上げるとずっしりとした重さがあった。こんなの飛んで来たら、小屋でも普通に壊れるだろ・・・

 それがあの勢いで飛んで来たテントには掠り傷さえなかったのだ。


「あり得んな・・・」



はっきりしたことは、あれはこの世界のテントでは無い。おそらく異世界から来た代物だ。


 ・・・だとしたら、デモンおじさんは異世界人だ。そう考えると何もかも辻褄が合う。

 まずはおじさんの容姿・・・いや容姿はともかく言葉が変だ。そして住居、崩れた崖にある住居は如何にも怪しい。おじさんの部屋だという所には、古びた机と椅子、寝台の他にほぼ何も無かった。それにおじさんスマホはおろか電話さえ無いのだ。


工事で入った俺は、通路の先にバラックで隠された頑丈そうな大きな鉄の扉があるのを見ている。表面には古代文明を想像させる凸凹した何かが描かれてある両開きの巨大な扉。


 おそらく、あの扉の向こうは異世界・・・


 つまりあのテントはおじさんが異世界から持って来たものに違いない。あそこを塞ぐ必要があって、こちらのお金が無いので物々交換みたいにしたのだろう。


 そうだ、そうに違いない。


 但し、たまこれは夢の様なテントだ。値打ちとしては100万円では効かないだろうが、金を出して買えるものでは無い。


 おじさん家の工事は終わった。土建屋が型枠外して壁が出来た後、俺が入荷したメッチャ重い頑丈な両開きドアを取り付けて終了だ。


「デモンさん、これで工事完了です」

「うん。ばっちりアルよ。これ約束の物アルね、移譲!」

「え・・・」


 何とデモンおじさん、陳列棚ごと俺に渡してきたよ。たまこれシリーズだけで無く、『村これ』とか『家これ』、『町これ』、『国これ』って何となくヤバいものがいっぱいだ・・・


「これ全部か?」

「そうアル、約束どおりアルよ」


 マジかよ・・・


「これは多すぎるわ。テントだけで良い」

「と言っても、他に売る宛ナイね」


 そうか。まあそうだな、これが魔法で作られたなんて下手に知られたらとんでもない事になる。まあ、誰も信じないだろうけどな。


「デモンさんは、ここで(この世界で)何か買いたい物があるのか?」

「分からないアル。あそこが塞がれば一段落よ。あとは「おっちゃん」の所で飲み食いするだけアルね」


 それだけ? まあ出歩いている様子が無いし、おっちゃんのところでの飲食は2・3千円あれば足りるだろう。ポケットから財布を出して3万円ほど差し出した。


「これあげる。これだけあれば10回くらい飲み食いできる」

「おおきに、ごっつぁんです。これでおっちゃんのツケ払えるヨ」


 ってそんな言葉どこで覚えたのだ。

おっちゃんのとこか、おっちゃんのとこは日雇い人夫から外人や大学教師まで客層が広いからな・・・ツケで飲んでいたのね。


「でも、よそだと一回でも足りない所もあるし、気を付けてね」

「問答無用。分かっているアルね」


 って、それ使い方間違っているし・・・



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