第3話・商談成立
「ふぃーー、旨え!!」
洞窟屋のおっちゃんの所に戻った俺は、ホルモン煮を肴にビールを飲みながら考えていた。味噌で煮込んだホルモンは柔らかくて酒やビールのつまみに最適だ。ビールが進む。夏の仕事上がりで喉がカラカラなのだ。一杯目は一気に流し込んで、二杯目を貰う。
ドングリおじさんは俺の前に座り、同じ様にビールを飲みながらニコニコとして俺を見ている。その大きな目にははっきりと期待の色が浮かんでいる。
おじさん家の壁作り工事は、陳列品と引き替えだという。
一番上にあるテントは、たまこれ22、33,44が5つずつだ。これがバッタもんで一万ほどの物なら十五万、使える物ならば五万で売れば七十五万だ。その差は大きい・・・
「ちょっと不思議だけど、これはどういう作りになってる?」
「魔法アル。魔法で作ったテント」
「え・・・」
思わずドングリおじさんの顔を見たが、やはりニコニコしている。
「ちょっと床で、いや外の土の上で拡げて中に入って見て良いか?」
「勿論アル。、山ちゃん、テントを使い慣れていると聞いているアル」
あっ、俺の名前は山本仁也。38才の独身で、家のリホームなどをしている自営業だ。
趣味の一つは休日の山歩きで、連休があればテントを背負って山にはいる事が多い。人は俺の事を「山ちゃん」とか「山じん」とか呼ぶ。
ちなみに俺の屋号は「山人(やまじん)ホーム」だ。
「ふーむ。生地も問題無さそうだ。縫い目もファスナーも実にしっかりしている・・・」
店の外に出て地面にテントを拡げて、手で叩いて強度を確かめ細部をじっくり見ても欠点は見つからない。
「ホースで水を掛けてもいいか?」
「構わないアル。存分に試すアル」
ドングリおじさん、ちょっと言葉が変だな。今さらか・・・
「おっさんに水使う許可を貰ってくる。テント飛ばないように押さえて貰いたい」
「OKアル」
固定していないテントは良く飛ぶのだ。ちょっとした風でも山ではあっという間に谷底だ。俺は何回かそういうのを目撃したことがある。一度は正月にロープを付けてテント揚げしたことがあるくらいだ。
さすがに凧の様には飛ばなかったけど・・・
「おっちゃん、外の水道使って良いか?」
「おう。良いぞ!」
許可を貰って店の外に出る。途端に突風が埃を運んで来て、慌てて目を閉じた。目を開けるとテントと横に立つニコニコ顔のドングリおじさん。
って、絶対テント押さえてなかっただろう?
でも飛んでねえな・・・なんで?
「ドングリさん、今テント押さえてくれてた?」
「大丈夫アル。固定したアル」
固定ってなんだ?
「どういうこと?」
「論より証拠。山ちゃん動かしてみるアル」
え・ドングリおじさん、論より証拠なんて難しい事言えるのね、などと思いながらテントの端を持って引く、引っ張る・・・押す、両手で押す・・・、今度は持ち上げてみる・・・・・・
動かねえ! 勿論、動かせばテント全体は歪むが底面が動かないのだ・・・
何だこれは!!
「ドングリさん、どうなってる?」
「アテの名前はデモンね。これは魔法のテントと言ったアル」
「マジかよ」
「マジアルよ」
「・・・」
「じゃあ、動かす時はどうするの?」
「こうする」
ドングリ、いやデモンさんは手の平をテントの方に向けて
「テント・たまこれ22、解放せよ」
と言った途端にテントは僅かに揺れた。おじさん、片手でテントを持ち上げてドヤ顔を決めた・・・
詠唱かよ! 魔法じゃん! ありえん、でも、かっけぇ!!
「・・・もう一度固定をお願い」
「テント・たまこれ22、固定!」
動かない、ぐむ・むむむ
と・取りあえずホースで水を掛けてみる。テントは水を良く弾いている。
ならばとバシャバシャ掛けて、内側を手で触ってみた。
シングル・ウォールなのに内側は全く透過していない、サラサラだ。底面にもドンドン水を流し込んで水を止めて、中に入って座って見る。体重が掛っているお尻の下も底面からの染み出しは無い。
うん、合格だ。
たまこれ22は2m四角のテントのようだ。
風にも雨にも強い、テント内の通気性も良い。そしてむちゃくちゃコンパクトで軽い。重さは恐らく100gほどだろう。
今、最新最軽量のテントが一人用1m×2mで1kgを切るぐらいだから、このテントの価値は・・・あり得んほど高い。
あとは、
「デモンさん、これは魔法のように直ぐに消えたりしないか。それと修理は出来る?」
「いつまでも使えるよ。リペアは難しいアル。でも丈夫ね、滅多に壊れないアル」
「分かりました。このテントと引き替えに工事をやります」
「・・よろしく頼むアルね」
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