第12話 櫓を漕ぐ手

日本に火縄銃がもたらされた頃の時代 大航海時代 

ガレー船 イスラム勢の船で櫓を力強く漕ぐもの達

10時間以上の苛烈な仕事


古代から続くガレー船

まだ、この時代は 地中海では気候の為にガレー船が主流だった 

それは後少しの時代まで続く。


上着は 汗まみれになるので 皆 脱ぎ捨てている


足には鎖と足輪


古代から続いて 

皆、奴隷とされた者達は 鉄の足輪と鎖で繋がられていた。


過酷な労働で力尽きる者達も多く、葬送の儀式も無く

死体は海に捨てられるのだった。


敵との海上での戦いで 捕虜として捕まり

こうして、今は船の櫓を漕ぐ


「・・貴方には 大きな役割があるから、まだ死なない 死ぬさだめではない」

幻聴のような声 それは 儚い希望だろうか


熱のこもった大きなガレー船の奥底

5,6人が一つの組として漕いでいた 多数の櫓


5,6人の者達が それぞれ横一列に並び 1つの大きな櫓を漕いでいる

それらの横一列の席が 幾つもあり 

船の穴に 1つの巨大で重い櫓が出して それを漕ぐ 幾つもの穴と櫓


巨大な船を動かす 櫓は幾つもの数 それが動力 

大勢の奴隷たち


鞭を持つ男が 監視役として立ち 様子を見ながら 幾度も巡回していた


眠気に襲われれば 手痛い鞭が与えられて 起こされる


まともな食事も 与えられてない


たまに 日光に当たれる日があり

ぼんやりと 僅かな時間に 甲板の上にいた時だった


「・・お前が 今度はガレー船の奴隷か ハハっ」赤ひげの男が笑う

赤ひげの海賊 手強い海賊


彼のせいで沢山の者達が死んだ

海際の街など千人を超える者達が浚われて奴隷として売られた


数年前は彼が囚われて こちら側の船ガレー船の漕ぎ手になっていたが

「…ああ、そのようだ」いつの間にか覚えた 彼等の言葉でヴァレッタが答える。


僅かばかりの休憩時間が済んで 私達は再び 終わることがない

ガレー船の奥底へ


永遠の囚われ人のごとくに・・


気を失いかけて 声がする

「あと・・少しですから 貴方には 大きな役割がある 信じてください」


「聖遺物 聖人の手(聖ヨハネの遺骨)が 騎士団にはある」


彼は静かにバレッタを見つめ

「あなた達は 彼の僕(しもべ) 同時に彼に祝福され 約束された者達」


「遥か昔 貧しき者 弱き民 巡礼者達の為に病院と宿の提供を始めた

ヨハネ修道院 そこから生まれたヨハネ騎士団」


「今は・・ロードスの騎士団」


ハッとすると 綺麗な面立ち 長い黒髪に異国の衣装を着た少年が立っている

背にはリュートの楽器

「もう少しですから・・」 私を見つめる その瞳は深い海のごとく 煌めいていた

あのアドリアの青い海のように


優しく 頬を撫でる手 天使のごとく 微笑んでいた


「・・ふふ 僕は天使では ありません 魔物ですから」「え?」

にっこりと微笑んだ後 別の男の首筋に牙を立て 男は小さな悲鳴をあげる


白昼夢 ただ一瞬の出来事


大きく息を吐き 私は再び櫓を握りしめ・・

すると・・

「ああ、 また死んだか?」


それは白昼夢の中で 少年の牙で 小さな悲鳴を上げた男だった

男には 首すじに小さな赤い穴の痕  牙をたてられた痕


そうして それから

ある時 地獄の終わりが前触れもなく やってきた


捕虜交換に 私が その一人として加わった


濡れたタオルで身体を清め 平民の服に着替えから

小舟にのせられる 


迎えにきた者達

懐かしい仲間達 友たちもいる

「お帰りなさい ジャン」「バレッタ隊長」 互いに抱き合う


「有難う 他の者達は?」

「帰ってこられたのは 貴方を含め 半分のみです」「・・そうか」


哀しみと深い心の傷跡


再び 騎士団の任務に戻る事になる


新たなイスラムの覇者 

東ローマ帝国 コンスタンチンノーブル帝国を手に治めた者達

コンスタンチンノーブル(今のイスタンブール)を都として

イスラムのオスマン帝国 


ギリシャ本国もすでに 彼等のもの・・

東欧もまた・・


彼等に抗う 水際の最前線

それが十字軍 最後に残った ただ一つの我ら十字軍騎士団の役割


それから しばらく後の事だった



どうにか オスマン帝国からの支配は受けずにいた

ギリシャの中にある ロドス島 薔薇の島と呼ばれる豊穣の島


ギリシャ七不思議の一つの伝説も持つ島 大きな彫像が火を掲げ 海を照らす

今はない幻の伝説


祭りの日だった


島での祭りの時 吟遊詩人の少年は 微笑む

「では 次なるは ギリシャのロドス島を守る騎士達の御話を・・」

謡い語る御話


イエルサレムの聖墳墓教会近くを守護地とした

聖ヨハネ騎士団 病院と巡礼者の宿を目的として設立された修道院


あと 二つの騎士団 ソロモン神殿跡を守った 悲劇の神殿騎士団

テンプル騎士団


遠く 東のプロシアに去ったチュートン(ドイツ騎士団)


手強いヨハネ騎士団は 今はロドス島で 海を守り・・


祭りの中で バレッタは 驚きの表情で その吟遊詩人の少年を見ていた


ゆっくりと舞台を降り立ち 歩み行く少年


すれ違いさまに 彼はバレッタにそっと小さな声で呟く

「無事に戻れてよかったです 隊長」

「まだ あまりご無理されずに 長い あの過酷な状況でしたから・・」


慌ててバレッタは 彼の細い腕を掴む

「吟遊詩人 お前は!」


「はい 魔物です うふふ」「僕の名前は・・・・・」彼は笑う

「貴方には 大いなる運命の役割がある 聖人に託された運命が・・

2つの苛烈な戦いで生き残るから」


一瞬の風が吹く、彼の姿は消えた。

それは秋の豊穣の祭り 聖人たちの祝い 祭りの日の出来事


FIN





※エルサレムの王国で出来た 騎士団の一つ

王国がイスラムに奪い返され エルサレムを去った後

前線にあったロードス島 マルタ島で

オスマン帝国、イスラムのスレイマン大帝と戦う事になり

激戦の後で マルタ島にバレッタの名前が街に残る事になります


ロドス(またはロードス島)はギリシャ、エーゲ海の島

(当時、ギリシャはオスマン帝国の支配下)


マルタは 西洋の欧州 南イタリアと

イスラムの支配下にあった北アフリカのチュニスなどの中間点でした


またガレー船の漕ぎ手は 

一部、イタリア都市では人権も確保され、職業としてもありました

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