第7話 銀の髪をした貴婦人
教会のステンドグラスを眺めながら、まだ年若い子爵がいる
手には杖が握られて、それに支えにして立っていた。
教会の美しい貴婦人の肖像画
その前で淡い色の金の髪に若草色の瞳が 彼の瞳が何かを思うように立っている。
「子爵様…もうお怪我の方は大丈夫なのですか?」
神父が彼に気がつき、心配そうに見てiた。
「神父様、御心配をおかけします あの時は有難うございます」
子爵の手首には包帯が 彼のグレーのスーツから 見え隠れしている
彼は視線を左側奥の肖像画へとゆっくりと移す
「あの絵の肖像画が私の先祖なのですね
城にも、一回り小さい同じ物が有りますが…」
「子爵様、お立ちになるのも、まだ辛いのでは?
紅茶にクリスマスプディングもございますから
こちらへどうぞ」
「そうですね
あの雪の降る日に馬車を襲った強盗達に散々、殴られ…連中と争い
挙げ句、馬車からほおり出され崖の下へ
この程度で済んだのは、神か天使の恵みですね」
神父はその私の言葉に微笑みかける。
「彼等、強盗達もすぐに捕まり、奪われた馬車や品物も取り返されたとの事ですね」
「まあ、お話はこちらで 香辛料の効いたジンジャー入りのクッキーも
ございますから」神父
子爵である私は笑みを浮かべて 思い起こす
あの悪鬼のような強盗達、私を罵倒して罵り、貴族というだけで罪人だと‥
嘲笑って崖に突き落とした。
罪のない善良な従者は‥彼は貴族でなく罪一つもなく
私は崖の下で、夜の凍える雪の中で 死の淵にいた。
よくぞ、助かり この程度の怪我で済んだものだ
いや、下手をすれば あの雪の日に崖の下で、助けが来る前に
寒さで凍死してたかも知れない
乗っていた自分の馬車に金目当ての強盗が襲い
最初に御者が道にほおり出され、次に彼等は私の宝飾品や金を奪うと
あの崖の下へを投げ捨てるように突き落としたのだ…
気がつけば雪がクッションとなり
命は助かったのだが…
手首を痛め、足も捻挫して身動きが取れずにいたのだった。
時間が過ぎ、気が遠くなりかけた時に鈴が鳴るような綺麗な声がしたのだ
「アレクセイ」女性の綺麗な声だった 「え!」驚く私、クリストファー
いつの間にか…
銀の髪をした一人の貴婦人が私を抱き起こし
彼に微笑みを投げかけてくれたのだ。
朦朧(もうろう)とした意識の中で、この麗しい貴婦人を見ていた
「アレクセイ…もうすぐよ 助けが来るわ 安心して」
彼女は自分の肩にかけていた毛織物のケープを 私にそっと被せる。
「いけません、これでは、貴女が風邪を引いてしまいますから」
「ふふ、大丈夫よ アレクセイ
貴方は自分がこんな時なのに優しいのね」
銀髪の貴婦人が微笑しながら優しく話しかけた。
彼女は続けて言葉を紡ぐ
「あ!そうだった、貴方はアレクセイでなく
クリストファーだったわね
でも、本当によく似てる やはり血ね 貴方のお祖父様になるのよね ふふふ」
「あの…貴女は?」クリストファー、私が不思議そうに問いかけた。
「クリストファー、小さい頃の貴方を知ってるわ」彼女は優しく言葉を続けた。
「クリスマスのお菓子を食いしん坊な小さな妹達に自分の分まであげてしまう
優しい子」
「絵本が好きで何時間も何度も嬉しそうに読み返していた」
まるで吟遊詩人のように謡うように彼女が言った。
「貴女は一体?」
彼女は微笑み、私クリスタファーを安心させるように話した。
「もうすぐよ、見て」
彼女は崖の上の道を指差す
その指先の先、松明の灯りに馬の嘶き、人達の声がする。
「こっちよ!!早く!」彼女が大きな声をかけて
私は、彼女の微笑みを見ながら、ゆっくりと意識が遠くなっていった。
そうして
その後の話では 誰一人、彼女の姿を見ていない
「ふう…」ため息をつく
「子爵さま」神父はクリスマスの菓子を差し出す
教会での一室で、お菓子に暖かな紅茶を一口飲む
「城にも有りますが、教会の肖像画の貴婦人は…」
「子爵さま、貴方の曾祖母にあたられる方になりますね
この教会の建造や流行り病が蔓延のおりに大変、お世話をされ尽力された方ですね」
「その流行り病で早くに亡くなられたと…」
「銀の髪の麗しい貴婦人で‥」
「ああ、伝え聞いた話では亡くなる間際まで
うわ言で、まだ小さいご自分の息子アレクセイ様の名前を呼んでいたとか」
「アレクセイ様は貴方の祖父になられるのですね」神父が微笑んで言う
「はい、神父様」
私は神父にそう言って神父の問いかけに返して答えた。
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