第3話 Encount
キーンコーンカーンコーン。”生徒の皆さんは速やかに帰宅の準備をして下さい”
教室内に備えられているスピーカーからチャイムと抑揚のない機械音声が流れている。
「のせっち~。帰りゲーセンでも行かない~?」
背伸びをしながら近づいてきた榎本が机の前に立った。
「いや、悪い。今日先約があるんだ。また今度埋め合わせしてやんよ」
そういって右手をひらひらと振った。最近ゲーセンも行ってなかったから行きたさはあるけど、用事が二件立て込んでいるのでしょうがない。
「のせっちに用事があるなんて珍しいね~。もしかして彼女とかできたとか~?」
人を小ばかにしたような笑みを浮かべながら煽ってくる。
「別に用事ぐらいあるだろ。人を暇人みたいに言うな。彼女は出来るわけないから安心しろよ~。お前と一緒でな」
「うるせー、一言余計だよ!まぁいいや、んじゃまた明日なのせっち~」
榎本は鞄を肩に担いで颯爽と教室を出ていく。どうせ俺がいなくてもあいつは一人でゲーセン行くんだろうけどな。
「悪かったわね、榎本君のお誘い断らせてしまって」
「別に大丈夫だよ。それに別な予定もあったからどのみち断ってはいたぞ」
そう、とだけ言い残し姫凪も教室を後にした。
時刻は16時20分。待ち合わせの時間は18時、まだ二時間弱あるからどうしたものか。
まだ早いけど場所を確認するために近くまで行ってみてもいいかもしれないな。えーと、名前はAmianか。スマホで調べてみたら普通のカフェらしいので先に着いていても問題はなさそうだな。でもカフェなのに合言葉ってどういう事だ?
まぁ着けば分かることだし余計なことを考えるのはいいか。
「……っし、行くかぁ」
誰もいない教室に独り言がこだまする。
♢
あたりはすっかり暗くなりつつあり、街灯もチカチカつき始めた。スマホの案内をもとに目的地付近までやってきた。
すると小さなカフェが一軒見えてきた。看板などは無く入口にAmianとOPENと文字が書かれているだけの簡素なものだった。
ドアを開けると、カランカランと音が鳴り響いた。外の見た目に比べれば内装はモダンな雰囲気あり、席数もカウンター席が4席とテーブルが2席あるだけで、どこか隠れ家を想像してしまいそうになる。
「いらっしゃい。学生がくるなんて珍しい事もあるもんだ」
カウンター席の奥から体格のいいの男性が声を掛けてくれた。
「あ、いや……友達と会う予定があって、それまでコーヒーでも飲みながら勉強しようかと思ってまして。ご迷惑でしたか?」
男性は少し驚いたような顔を見せたが、すぐ笑いながら
「いや、怜ちゃんのお友達か。ならゆっくりしていくといいさ。僕の事はマスターと呼んでくれればいいよ。コーヒーでいいかな?怜ちゃんの友達ならサービスしておくよ」
そういいながらマスターはコーヒー豆を取り出してドリップを始めた。
「すみません、ありがとうございます。テーブル使っていいですか?」
と尋ねると、笑顔で頷いてくれた。
店内には備え付けのテレビが置いてあり、夕方のニュースがやっていた。
”次のニュースです。孤児院を狙った犯行が相次いで確認されており……”と最近話題の事件が取り上げられていた。
なんでも孤児院ばかりを狙って誘拐をする事件が多発しているそうだ。町には警備ドローンが徘徊しており、数も増やしているとのことだったが犯行は減るどころか増えているらしい。最近ではどの施設にも犯罪対策用のドローンもあるのだが、それにも気づかれずに子供だけをさらっていくみたいで、防犯カメラにも映ってないため犯人も捕まっていないみたいだ。しかも誘拐された子供は全員10歳未満で、全員行方不明のまま。
「はいよ、コーヒー。うちのは大分苦いけど大丈夫かい?」
ニュースを観ているとマスターがコーヒーを持ってきてくれた。ありがとうございますと会釈するとまたカウンターの中に戻っていった。
しばらくコーヒーを飲みながら学校の課題をやっていると、カランカランという音が聞こえてきた。
「マスターこんばんは。今日ここで待ち合わせしている人がいるのだけど……」
そういいながら姫凪は店に入ってきた。俺の存在に気が付いたのか俺の席の向かい側に座った。
「怜ちゃんいらっしゃい。怜ちゃんはいつものでいいかな?」
いつものって姫凪ここの常連なのか……。それよりも
「なぁ、姫凪。会わせたい人って誰なんだ?」
ふと疑問を投げかけてみるともう一人店に入ってきた人物がいた。
それは見知った顔というか毎朝顔を合わせている人物がそこに。その人物は俺の顔を見るなりどこか納得した表情で話しかけてきた。
「姫凪ちゃんに会わせたい子がいるなんて言われたから、どんな子なんだろうって思ってたんだけど~。なるほど、颯汰君なら納得だ」
二人目の人物は俺がよく知る目つきの悪い人形神社の神主、東雲さんであった。
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