第2話 Omen
2050年、東京は再開発により大きくその姿を変えた。2045年に技術的特異点を迎えたからでもある。特異点を迎えた人類は大きく進歩をした。AIを搭載した警備ドローンや家事をこなすロボットなど、人間社会に必要なものになっていった。
しかし都市やその近郊には意外と緑豊かな場所がたくさんある。人間の成長には自然との関りも重要だとお偉いさんが言ったかららしい。確かに無機物だらけに比べればマシだとは思う。
そしてここ、
「のせっちおっは~!」
窓の外をぼけっと眺めているところにテンションの高い挨拶が飛んできた。
「おはよ
そういって声を掛ける。
「のせっち、なんかあった?いつもよりも疲れてるってか、髪もちょっとぼさってる気がするんだけど?」
「朝にちょっとね。つか髪に関してはお前に言われたかねーよ。なんだよその前髪、触角か?虫にでもなりたいんか?ハエ叩きで叩いたろうか?」
「触角じゃないわ!これはオシャレですぅ~!のせっち自身素材はいいんだからいじってやろうか?勿論友人価格でね!」
「お前ダチから金取るなよ。現金な奴め」
下らない話をしていると榎本の後ろから咳払いが聞こえてきた。
「ちょっと、そこ私の席なんだけど、どいてくれる?あと朝からうるさい榎本君。もうすぐホームルーム始まるから席に戻って」
そう声を掛けてきたのは
ただ、性格はきつく一部の人間からは氷の女王と呼ばれているとか。学年問わず人気があり、この学校のマドンナ的存在でもある。
「もうそんな時間か、わりぃ委員長戻るわ~。のせっちまた後で話そうぜ~」
それだけ言い残し、榎本はそそくさと自分の席に戻っていった。
「おはよう一ノ瀬君。」
こういう何気ない挨拶でも学校のマドンナ的な存在と席が隣なのはある意味役得なのかのしれないと思う。
「ん、おはよう姫凪。お前もなんか疲れてない?もしかしてまた?」
姫凪は溜息を一つついて答え始めた。
「一ノ瀬君の想像通りよ。私、色恋沙汰には興味ないのよ。それに今色々忙しいし」
鞄の中の教材を机の中にしまいながら、今朝あったことを聞かせてくれた。
イケメンの先輩から呼び出しをもらい、案の定告白だったそうだが、粉々に心をへし折って断ったそうだ。詳細は怖いので聞かないことにした。
「一ノ瀬君はそういうのないから楽よ。私こんな性格だからあまり友達いないでしょ?」
”自分でも分かってんじゃん!素直になればいいのに!”
突然聞き覚えのないイタズラ好きの子供のような声が教室に響いた。思わず立ち上がり周りを見渡すがそのような子供の姿はない。
「どうしたの?急に立ち上がって……何かあった?」
ハッと我に返り急いで椅子に座る。姫凪は
「い、いや~悪い!なんでもない!ちょっと疲れてんのかな~?」
はははっと笑って誤魔化してなんとかこの場を収めようとする。俺の秘密を知っているのは神社の東雲さんぐらいだから、周りから見ると変な人になってしまう。
それにしても、恐らく姫凪の持ってる持ち物に宿っているのがある。それにかなり強いのが。姫凪の会話に入ってきたからほぼ間違いなく姫凪の持ち物だ。
実はだいたい物に魂が宿ること自体さほど珍しいことでもないのである。ただ仮に宿ったとしても言語化できるほどの魂は少ない。大抵の場合ちょっとしたノイズ程度の音しか拾わないはずなのだ。朝見た人形はかなり強めの自我を持っていたが、実は珍しい部類なのである。
「ねぇ一ノ瀬君。あなたに会わせたい人がいるんだけど、放課後ちょっといいかしら?」
うぇっ!?とアホみたいな声が出てしまった。普段誰からの誘いも断っている彼女からのお誘いなんだから無理もない。それにして会わせたい人って誰なんだろうか?
「ちょっとどうなの?そんなアホみたいな声出して」
「い、いや、放課後すぐだったら大丈夫。7時から俺も行かなきゃいけないところあるからそれまでだったら行ける。あとアホで悪かったな」
最後を嫌味っぽく言ってみたけど、そうとだけ返して紙にメモをし始めた。ホント可愛げのない奴め。
ササっと書いた紙をこちらに渡してくる。場所とそこに入るための合言葉が書かれている。そもそも合言葉が必要な場所って一体どんな奴と会わせるつもりなんだろうか?ってかなぜ急に誘ったのかも分からず終いだ。
それにさっき聴こえた姫凪の鞄の中におそらくいる声は一体……。
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