アニミズムブラッドサースター

伊藤ぐわ

第1話 Be Hear

 「ユミちゃん!学校いってらっしゃい!ニナお家で待ってるからね?」

そう呼ばれた女の子は声のするほうに関心がないかのように走り出していった。

普通なら返事ぐらいしてもいいだろうにと思うかもしれないけど、何せだから仕方がないかもしれない。

 女の子に話しをかけていたのは人間でもなんでもなく、可愛らしい人形であった。

人形故に言葉は通じず、ニナと名乗った人形も二階の窓から声を掛けるだけだった。

しかしどこか満足気な雰囲気まで感じる。

 そんな他の人間には聴こえない、声がどうしても聴こえてきてしまう。何故こんなものや人形の声が聴こえてくるのかはさっぱり分からないのもまた悩みでもある。

 一つ溜息をついた少年、一ノいちのせ颯汰そうたは通学路に戻る。

そうしてしばらく歩いていると神社が見えてきた。ここは人形神社とよばれている場所で、人形の供養など請け負っている神社であり登校前に必ず立ち寄っている場所でもある。

「颯汰君、今日も来てくれたのかい?学校前なのにいつも悪いね~。この子たちもきっと喜んでくれてるよ~」

 そういって庭を箒で掃きながら声を掛けてきたのがこの神社の神主である東雲しののめさんである。

見た目は神主にしては若く30代前半ぐらいで、紫に紫の模様が入っている袴を着こなしている。目が細くちょっとこわもての人でそれをちょっと自分でも気にしているらしい。

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。朝ここにくるのが日課みたいになっているんで、それに東雲さんは俺の事知ってるじゃないですか」

そういって社に祭られている人形やぬいぐるみに目を向ける。

「まぁ最初は驚いたけど、僕の知人にも似たような人いるからねぇ~。それに、僕にも……」

 話が途切れたかと思うとカランと箒が倒れる音が聞こえ、東雲さんの方へ振り替える。

「東雲さん…?」

東雲さんの視線の先には社の柱に隠れている少女がいた。ここからではよく見えないけど中学生ぐらいだろうか?それにしても長いことこの神社に来ているけど少女なんて見たことないんだけどなぁと思っていると

「あぁ、すまない。彼女は知り合いに頼まれて数日預かってる子なんだ。極度の人見知りで滅多に人前には出ない子だから、ちょっと驚いちゃって」

よいしょっと落とした箒を拾い上げながらそう説明してくれた。それにしても驚きすぎではと思ったが、予想外すぎて固まったって感じかな~。

「せっかく人前に出たんだから颯汰君には紹介しておこう。血影ちかげ!いつも遊びにきてくれている颯汰君だ!こっちおいで!」

血影と呼ばれた少女は顔を俯けながらちょこちょことやってきたと思ったら東雲さんの後ろにちらっと顔だけ出して隠れてしまった。

「血影~、颯汰君はやさしい人だぞ。これからも長い付き合いになるかもしれないんだから挨拶ぐらいしなさいな」

 そういって少女を前に出るよう促した。俺が無害そうだからか観念したのか分からないけど、少女は出てきてくれた。巫女装束を着て、黒色の髪は肩先まで伸びている。そして何よりも驚いたのが、その深紅の瞳だった。どこか吸い寄せられるような不思議な魅力を持つ少女というのが印象に残る。

 少女と話しやすいように屈むと、顔をずいっと近づけられた。一瞬ドキっとして軽く仰け反ってしまった。それでもじーっと瞳をのぞき込んでくる。どこか品定めをされているような気分に陥ってしまいそうになる。

 すると少女の顔は恥ずかしさから笑顔に変わっていった。こちらも笑顔を返すと少女は急に抱きついてきた。

「お会いしたかったです!!」































 

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