第69話 S級?の怖さ



俺とレイラの二人は冒険者ギルドに来ている。


レイラに何か言ってくる…そう思っていたが、誰も文句は言ってこなかった。


だが、嫌な目でこちらを見ている…文句を言ってこない以上は、こちらも何も出来ないな。


流石に『眼をつけた』と絡んだらならず者だ。


「嫌な目でこちらを見ていますね…腹が立ったら殺しちゃおうかしら?」


冒険者同士の揉め事は自己責任。


だが、そんな事をしたら総スカンを食らうだろう。


「それは止めてくれ」


「あら?ただの冗談ですよ!」


元四天王、いや魔王が言うんだから笑えない。


まぁ冗談だよな。


「リヒト様、本日はどういったご用件ですか?」


「ああっ、ワイバーンを狩ってきたから討伐完了の報奨金と素材の買取りをお願いいしたいんだが…」


「ワイバーンですか? 凄いですね…それじゃ裏庭の方にお願いします」


「ああっ、解った」


「それでワイバーンはリヒト様一人で」


「いや、殆どレイラが狩った…」


「殆ど…まさかの複数ですか?」


「まぁね」


そう答えて、俺達二人は裏庭へと向かった。


◆◆◆


「ワイバーンかすげーな」


「S級ともなると、竜種が狩れるんだよな、確かにギルマスの言う通り怒らせたら大変だ」


「折角だから見に行かねーか」


裏庭には、俺達以外にも結構な数の野次馬がついて来て、騒いでいた。


多分、これから全員が信じられない物を見る事になる。


ワイバーンと言えば普通に冒険者で狩れる獲物じゃない。


S級の俺やエルザでようやく1羽狩れる位の獲物だ。


A級やB級だと沢山の人数を集めて1羽か2羽狩ることが出来る獲物だ。


その為素材迄合わせた討伐の報酬は1羽金貨50枚(約500万円)を下らない。大型になると1羽金貨100枚(約1000万)になる事もある。


それが26羽…恐らくとんでもない金額になる筈だ。



「それじゃ、出しますか? それっ」


「ええっ…嘘、本当に複数…ええっええー-っ」


「嘘だろう、もう5羽目だぞ! 5羽をいっぺんに狩ったなんて話は大規模討伐の時に騎士団が狩った時以来だ」


「おい誰かギルマスのスベンを呼んで来いよ…まだ増えそうだぞ」


「おい、もう8羽目だぞ…嘘だろう…こんな事を1つのパーティで行えるのなら、希望の翼はどれだけ強いんだよ…」


「まだ、増えていくみたいよ!」


「これがS級冒険者の実力…最早人間じゃないな」


S級と言うのは『A級以上』の存在を言う。


だから、『A級を少し超えた』位の奴から、誰も手に負えない存在迄いる。


恐らく、俺やエルザは、そのS級の上位で恐らく、最強は勇者のガイア辺りの筈だ。


最もS級の中には情報が解らない存在もいるから、誰も知らない、実力者が居る可能性はある。


それでもだ…レイラみたいに20を超えるワイバーンを簡単に狩れる存在は居ない筈だ。


まぁレイラは人間ですらなく『サキュバスクィーン』そして魔王だ。


桁違いに強いのは当たり前だな。


「おい…もう15羽目だぞ...」


レイラの奴遊んでいるな。


本当ならいっぺんに全部出せるのに、態々一羽ずつゆっくりと出している。


冒険者が驚いているなか、ギルマスのスベンが現れた。


レイラもワイバーン26羽全部を出し終わった後だ。


冒険者ギルドの裏庭は26羽ものワイバーンで足場も無い状態だ。


「なんだ…このワイバーンは…」


「それがマスター、これ全部リヒト様達『希望の翼』だけで狩ってきたみたいです」

「希望の翼5人でこれだけ狩ってきたのか」


実際にはレイラ一人だ。


さっき、そう言った筈だよな。


「いや、それは…」


俺が否定しようとしたらレイラが割り込んできた。


「そうですよ? 希望の翼で狩ってきたんです!」


「おい」


「嘘はついてませんよぉ…いいじゃないですか?」


確かに、俺もレイラも希望の翼だ。


全員とは言っていないから嘘ではないな。


「そうか…流石は『希望の翼』だ、だがこれだけのワイバーンだ、査定は今日中に全部は無理だな。明日まで時間を貰えないだろうか?」


「別に構いませんよ」


そう答えて俺とレイラは冒険者ギルドを後にした。


◆◆◆


俺は山積みになったワイバーンを見ながら、今更ながらS級の恐ろしさを心底感じた。


俺はリヒトやエルザの力を見誤っていたようだ。


S級でも普通は一対一でワイバーンを狩れれば良い方だ。


だが『希望の翼』は5人で26羽を狩ってきた…この数は異常すぎる。


S級は基本化け物だが…恐らくその中でも群を抜いた化け物の集まり…それが、リヒト達『希望の翼』だ。


ファルハン伯爵の判断は正しかった…そう言う事だ。


こんな最大戦力…絶対手放せない。


それに、リヒト達がいれば、この支部が全ギルドで1位になるのも夢じゃない。


「これで、解ったんじゃないか? この支部の冒険者全員、いや下手したら一国の騎士団全員でかかっても勝てない可能性がある…どれ程、リヒト達が恐ろしい存在か解っただろう?」


「良いですか? S級冒険者や勇者パーティは化け物なんですよ! 元から魔王城に行って戦える位の実力者なんですよ」


「此奴の言う通りだ…魔王や魔族と互角に戦える、そういう存在なんだからな」


俺が思った以上に『恐ろしい存在』だった。


一国の騎士団全員なら勝てる。


それは俺の詭弁だ…こんなの『魔王』と同じだ。


敵にしたら『死ぬしかない』


多分『希望の翼』が本気で戦えば…大国の王を殺して笑いながら去って行ける。


リヒトはやらないがその位出来る力はある。


「俺は絶対にリヒトを怒らせねーよ…」


「二度と揶揄わねー」


「体が震えて仕方が無いわ…もう『希望の翼』のメンバーを馬鹿にしないよ」


皆、怖さが解ったか…


「俺の言った事が解ったか…これがS級で元勇者パーティの実力だ」


無言でこの場にいた者全員が頷いた。


俺も此処迄とは思っていなかった。


「ギルマス、この査定は…」


「貴重なワイバーンの査定と素材だ…徹夜でやるしか無いな」


「そうですね…はぁ暫くは家には帰れませんね」


これで、もうリヒト達に絡む馬鹿は誰も居なくなるな。


ひとまず安心だ。













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