第3話 だから、三角形は汚い
「クライマックスバトルと行こうぜぇ!! ――スタミナ太郎!!」
凛太郎は大声を周囲に響かせた後、目の前の巨大生物を右手で指差す。
ド派手な赤色と蛍光色のラインが目を引くスポーツジャージを身に纏う凛太郎は巨大生物の目を引きつけ易いのか、生物の大きく開いた巨大な瞳は凛太郎だけを威嚇するように見つめると、地面を
「―0!!」
「うし来い!!」
ぷーこのカウントダウンが0を告げると凛太郎は額につけていたゴーグルを下げ、巨大生物に向かい地面を蹴る。生物も凛太郎と同じタイミングで地面を蹴ると、地面を揺らしながら凛太郎に突撃してくるのだった。
「重心右! 頭! 角! 左に振る!!」
ぷ―この端的な言葉が俺の耳に届くと目の前に迫ってくる巨大生物が見せる実像の動きとは別に、ぷーこの先読みを俺がイメージ化したビジョンがズレを起こしたように脳内に2重に重なる。そして、捉えた数秒先のイメージに抗うように巨大生物が俺に角を向け頭を左に振る瞬間、俺は体を反対方向に捻ると地面に飛び込むようにして突進を回避する。
「ふんすっ!」
凛太郎は掛け声と共に左手を地面に添えクルッと地面を前転すると、闘牛のように通り過ぎていった巨大生物に向かい、頭上で大きく両手を鳴らすのだった。
「ヘイ! へヘイ!」
巨大生物は体を揺らしながら勢いを殺した脚を止めると体を翻す。そして、再び凛太郎に視線を合わせると荒い息を吐くのだった。
「残念だがスタミナ太郎。俺とぷーこが連携してる限り、お前の攻撃は当たんねーぜ!!」
俺はスタミナ太郎を見ながら顔の横で手を鳴らしながら不敵に微笑んでやった。
――俺達トライアングルダーティーは、各々が技能を持ちだ。
ぷーこは生物を見れば見る程、観察すれば観察するほど相手の行動を先読みしてくれる。予知ではなくあくまで予測だが、見た時間に比例して実際の動きと予測の誤差が少なくなっていく。
そして、俺は伝達された言葉やデータを視界で捉えてシンクロイメージ化できる。
見えないはずの先の世界をぷーこが予測し、俺がイメージ化して相手の攻撃を避けて、煽りまくって、視聴者から芸術点を稼ぐと共に相手を疲弊させる。
トライアングルダーティーの俺とぷーこのコンボ――
「凛太郎が妄想の果てに辿り着いた。イメージ倶楽部? ドリームクラブだっけ?」
「ろくでもない名前つけんなっ!」
「創造主とかの方が良いのー?」
「………」
もうバカ女は無視だ。
俺は光くんが決めてくれるのを待つだけだ。
回避して、疲れさせて、頭に血を昇らせて、俺だけに引き付ける。
いつもの必勝パターン――
「3秒停止!」
「了解!! 凛太郎!! 前足に機銃掃射する!!」
「オッケ! 光くん!!」
ぷーこの合図を受け、光介が攻撃態勢に移ると、凛太郎は生物を煽るような今までの動きを止め、即座に距離を取る。
光介は車載用銃架に備え付けらた重機銃ブローニングM2の弾帯を給弾口に装填しカバーを閉じると、銃を構え、コッキングレバーを力強く後方へ引いた。
「撃つぞ!!」
巨大生物が動きを止めた瞬間、光介は射撃合図と共に両手の親指で重機銃のトリガーを押し込んだ。
火薬の爆ぜる音を鳴らし放たれた1発目の銃弾は巨大生物の前足に着弾すると、巨大生物が上げる悲鳴より早く、光介はショートリコイルで自動装填された弾丸の2発目を立て続けに足に撃ちこむ。血しぶきが上がる中、5発ほど打ち込まれた弾丸は全弾前足に着弾すると巨大生物は折りたたむようにして右足を地面に崩すのだった。
「良し! 凛太郎止めをさす!! 1分集中する!!」
「「了解!」」
光介は時間を告げた後、すぐさま銃身の長い銃を取り出すと備え付けられたバイポッドと言う2脚をセットする。そして、給弾されたマガジンを慣れた手つきではめ込むと、伏せ撃ちするように体を寝かせ、バレットと刻印された銃のチャージングハンドルを後ろに引いたのだった。
「コンセントレーション入る」
光介は呟いた後、トリガーに指を掛けたまま動きをビタリと止める。
微動だにしない時が止まったような光景の中、撃鉄にかかる指の感覚とスコープ越しに対象を睨む両目に全神経を集中しているようだった。
「光くんが決めるまでに俺も視聴者サービスやっとかないとな! ってことで飛び込むんで、ぷーこよろしく!!」
「えー? どうしよっかなー?」
「どうしよっかなーじゃねーよ!! 胸筋揺らす暇あったらサポートしろっ!」
凛太郎はクスクスと笑うぷーこと会話を交わしながらも巨大生物に突っ込むと、崩れた前足を必死で立て直そうとする地面と生物の体の隙間に潜り込んだ。
「――毎回毎回好きかって言いやがって…」
「右後ろ脚! 真下に叩きつけ!! 光ちゃん! 頭止まる!」
傷ついた前足を震わしながら踏ん張るようにして体を持ち上げた生物は、自身の体の下に潜り込んだ凛太郎に対し、右後ろ脚の蹄を持ち上げようと地面から浮かせた。
生物が地面から脚を浮かせた瞬間――
光介は微動だにせず生物の一点を見つめていた視線を更に尖らせると、まるで無意識のように小さく口を上下に動かす。
「――2,895 ft/s 1006.12423-173.518.4――スゥ」
光介は謎の数字を呟き、小さく息を吸い込むと、トリガーにかかる人差し指を一定速度で引いたのだった。
大きな破裂音を鳴らし発射された一発の弾丸は高速で空を切り裂き一直線で対象に向かう。そして、生物の後ろ右脚が上がり制止した瞬間、光介の放った弾丸は対象の眉間に絶妙な角度で突入したのだった。着弾の衝撃で少しだけ跳ね上がった生物の頭は、直後力が抜けた様に重力に従い地面に向かい落ちる。と同時に力の抜けた体も地面に倒れえ込むように落下し始めると、生物の後ろ脚付近にいた凛太郎は落ちてくる巨体を見開いた眼で見上げる。
「…ジーザス」
絶望するような声を漏らしながらも、凛太郎は直ぐに落下してくる体から逃れる為に地面を蹴るのだった。
光くんは
――毎回、俺はこうなる気がする。
俺は倒れ込んでくる巨体をかわす様に、前に全力で駆け抜けるとヘッドスライディングする様に足に力を込めたのだが、絶妙なタイミングで巨体が地面を揺らした瞬間、いつも通りカタパルトのように地面から直立姿勢を保ったまま打ち上げられたのだった。
*草www *タイミングが神www ほんと草www
*いつ見ても草www *カジキマグロwww
慣れたものだ。
俺は空中に投げ出されながらも、どうせ草とカジキマグロで埋め尽くされているコメントを思い浮かべ、額に怒筋を浮かばすのだった。
「…初めにカジキって言ったやつマジでしばきてー。なにが水面で体を躍らすカジキマグロだよ。ふざけんなよ…」
俺は苦言を吐いた後、地面に衝撃を殺し着地したのだった。
♢
今回の動画配信も成功。動画収益、投げ銭、報酬、たんまりだ。
スタミナ太郎は可哀そうだったが、狂暴化したら討伐対象になってしまう。そして、お肉はいつも通り各地に提供されるんだ。
――でも、いつも俺は思う。
金、金、金で構成された俺達を囲む、更に大きな三角。
金を求める動画配信者の俺達。
娯楽と謎の究明を求めながらも操作されているのを知らない視聴者、世論。
今のところ裏でほくそ笑み協力関係にある政府。
本当にどうしようもない汚い三角。
だから俺達は『トライアングル ダーティー』
三角形は汚いんだ…
トライアングル ダーティー 虎太郎 @Haritomo30
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