キャンセル勇者外伝、呪いの果てに

北の山さん

第1話

「くひひひ。驚きましたねぇ・・まだ発狂しませんよ」


「良いではないですか。優秀な実験素体は歓迎ですよ。

魔法移植限界の新たなデーターが取れましたし、次の実験にも進めます」


ぼやけた視界の中で黒いローブで顔の見えない男たちが喜んでいる。

実験とか言いながら頭の中に何か打ち込んできやがる。

そのたびに長い時間 地獄のような頭痛がするんだぞ。

どんなに泣き叫び喚き散らしても声は届かない。


消音の魔法?、糞くらえだ。


「あらあらぁ。お爺ちゃんたちは自分たちだけ楽しんでるのね。

次は私の番よぉ」


「ひっ。よせ!。お前さんの分野は呪いじゃろう。混入などしたら何が起こるか予想できん。優秀な実験体を壊す気か」


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・


今まで以上に不吉な会話が聞こえる。


俺の人生もここまでらしい・・。



******************************



「確か・・このへんだったはず」


ここは深い樹海でも最も危険な中心部・・だと思う。

俺はソロの冒険者。・・・ボッチ言うな。

どうしようもない事が世の中には有るものさ。


体の周りに消音の魔法を張り巡らし忍者のごとく進んでいく。

なぜ忍者を知っているか。

そりゃあ君、

通学途中にいきなり誘拐されたからさ。

この剣と魔法の世界に。


俺の他にも友達が二人犠牲になった。

そう、犠牲だ。


召喚したのは王様でもお姫様でも無い、悪質な魔術師の集団だった。



やっと見つけた。この木の実だ


深い森の中には不似合いな広場。そして中心には一本の大きな木。

そこにぶら下がっている大きな果実が今回の目的だ。


その果実は、国王がギルドに採集依頼を出した事でも分かる大変貴重な品。

そう、王室からの依頼。


ギルトとしても失敗が許されない。


しかし、大変に危険な依頼でもある。

そこでギルドは数での勝負に出た。


冒険者パーティの指定などせず早い者勝ちとした。

加えて成果が無くても依頼の失敗扱いにしないと明言した。

高額な依頼でありギルドへの貢献も大きい。


結果として、多くのパーティがこの依頼を受けている。

ソロではあるが自分もこの依頼に参加している。

報酬が高額なのだ。


夜が明ける前に収穫しよう。


王室御用達なので品質の良い物だけを選ばなくてはならない。

狙い目は【数日後に食べごろに成る実】だ。

何日も検査とかしてやっと王室まで届くだろうから今の時点で熟した実はだめだ。

それに 熟し過ぎている果実にはデカい虫が張り付いていて危険だからな。


急ぎ鑑定の魔法で木の実を判別し、目標の果実の下に「収納の魔法」を展開。

さらに魔法で枝から木の実を切り落として傷つく事なく収穫していく。

言うまでも無く大変に高度な魔法操作である。


危険な森の中では木の実を集めるだけで色々な能力が必要だ

俺も雑多な魔法が使えるからこそ仕事ができる。


自慢にはならない。

普通はパーティの中に誰か一人能力を持った者がいれば問題ない程度の話なのだ。

・・・・・


充分な量の木の実は採取できた。

もうすぐ夜明けだ。

急いでこの場を離れる。

理由は簡単。

果実を好物とする大型の魔獣は日が出てから動き出す。

この世界ではそうなんだ。



しかし、細心の注意を怠らなくても接敵はする。


歩いて10分ほどで魔獣とエンカウントした。

目の前には猪とカピバラを混ぜたような見た目の魔獣がいる。

大きさはインド像ほどの巨体だがこの森ではこれでも小型。

異世界の森の恐ろしさだね。


しかも、もっとヤバイ敵が近くに来ている。

だからサックリ仕留めて収納し、警戒を強めた。


えっ、うん・・。俺ってそこそこ強いんだ。



そして、接近する危険な奴ら・・・・。

ソロの俺が最も警戒するのは人間のパーティだ。


「おい、てめぇ。ここで何してる!!」


案の定、ゴロツキみたいなパーティに包囲される。

見えないのも合わせると10人ほどか。

この人数で動くなら高額の依頼でなくては赤字だろうな。


「言う必要が有るのか?」


「まぁ・・そうだろうな。

あの依頼でも受けなきゃこんな場所に居ないわな」


夜明け前で暗く相手の顔も分らんが、下品にニヤついているのは良くわかる。

チンピラの行動パターンからすれば次は恐喝か・・。


「帰り、って事はアレを手に入れたんだろ。

出せよ、命が大事だろ?」


「ねえよ」


「あん?、てめぇ逆らう気か。この人数に勝てるのかよ」


「ちょっと待って、リーダー」


リーダーらしき男のとなりは女か。

恐らくパーティの目だろう。索敵スキルと鑑定スキル持ちだ。


「確かこの男、ギルドでの評価が万年最下位のアレよ。

かまうだけ時間のムダ」


「プッ、こいつがそうか。ギャハハハ」

「「「ぎゃはははははははは、そいつは気の毒だったな」」」


緊迫した空気は霧散し、大笑いを始めるチンピラたち。

こんな場所で大笑いとは命知らずだな。

て言うか・・バカの集団か。

なまじ人数が多いからここまでは力押しで進んで来たのだろう。

先が知れてるぜ。


「お察しの通りだ。この先に目的の木が有る。

一人では危なくて近寄れないけどな」


少し悔しそうに演技してやる。


さっきの言葉を心の中で返してやろう。『お前たちの相手は時間の無駄だ』と。


チンピラパーティは大笑いしながら死に場所に向かっていった。

あーあ・・ナムナム。冒険者は自己責任だぜ。


もうすぐ夜明けだ、あの場所に行くのがどれほど危険か。

何故、あの木の周りだけ広場になっているのか・・。

考えて無いんだろうなーこいつら。


ラノベの良い子ちゃん主人公のように助けてやる義理はない。


半分盗賊のような奴らだ。本来なら今の場面でもしつこく疑われ、追及され、下手をすると口封じに殺されている可能性もあった。

だが奴らはアッサリ納得し、馬鹿にしながらも俺という獲物を見逃した。

ある意味かなり不自然と言える。


それこそが俺の不幸であり幸運なのだ。



俺、そして今は亡き友達二人を召喚したのはマッドサイエンティストならぬ、マッド魔導士の集団だった。


彼らは召喚された直後で体が動かない俺たちを拘束し、様々な人体実験を強行した。


例えば【身体強化の魔法レベルをどれだけ上げれば体が崩壊するか】の実験。

他にも【どれだけ魔法式を記憶させれは発狂するか】の実験など色々だ。


あのクソ魔導士どもは嬉々として俺たちを実験台にしていた。


「召喚された人間は誰も存在を知らないのだよ」


「人体実験で殺しても足がつかないから便利だね」とか言ってたな。


友達二人はその実験に耐えられず死亡。

日本で裁くなら拉致監禁、暴行、殺人罪だろうか。


俺も死を覚悟したよ。

でも死ななかった。


マッド魔導士どもは突然乱入してきた男に皆殺しにされた。


助けてくれた男はどう見ても日本人。


彼は助け出した俺を鑑定するなり もの凄く驚き一言、

「危なくてとても連れて帰れない」と言った。

どこに連行するつもりだったのだろうか・・。


何故か彼は俺に異世界で生きるための基礎知識を教え、一般的な武器、防具を装備させてくれた。当座の生活費は魔術師たちのサイフから抜き取った。


その後 大きな町まで案内してくれたが気が付くと彼は何処にも居なかった。

恩人なのにお礼も言えなかったよ。


ラノベで勉強?してたからね、当たり前のように冒険者になった。

そして知った。

恩人の彼が俺の何に驚いていたのかを・・。


自分のステータスを見て驚愕した。

魔術師たちの実験によって人外の魔力と多種多様な魔法を習得していた。

さらに【無詠唱】や【魔力回復増加】【多重詠唱】【空間掌握】【次元干渉】その他色々など魔術師たちの夢と欲望がテンコ盛りに詰め込まれていたのだ。


レベル5しか無かったのに能力だけは大魔導士か大賢者に匹敵、いや凌駕していた。


なのにギルドで騒ぎにならなかった。



******************



「依頼の品を採ってきた来た。完了手続きをしてくれ」


「・・・はい。確認しました。カカコの実100個、品質も問題ありません。

依頼完了です。報酬が大きいので別室にてお受け取りください」


ギルトの受付にて山のような木の実を出しても誰一人騒ぐ者はいない。

しかも日本円で500万以上に相当する報酬を俺が一人で受け取るのに誰も反応しない。

そう、テンプレのごとく驚く人も居なければ 強奪を企む者、妬んでケチを付けるバカもいないのだ。

受付担当の人ですら手続きが終わればまるで何も無かったかのように気にもしなかった。

伝票や書類での事務的な処理だけだ。


これが俺に張り付いている【フグウ】という強力な呪いなのである。


何が不遇かと言えば【どんな功績も無視される】という恐ろしいものだ。


何故、恐ろしいのか・・・


例えば俺がパーティに入ったとする。

魔物をどれだけ殺しても他の雑務をしても俺がやったとは認識されない。

当然、「何も働かない」とされ、俺はクビ。

ラノベのように追い出されて「ざまぁ」もできない。


俺がソロなのは必然なのだよ。ははは・・


日本で会社員がこの呪いを受けたと想像してほしい。恐ろしいだろ?


ついでに言うと俺がどれだけ多くのクエストを達成してもギルドの評価にはならない。だから俺はギルドの評価が最下位なのである。


機械的に報酬が支払われる事だけが救いだ。買取もしてくれる。

評価では無く単なる売買だからだろう。

おかげで何とか普通の生活ができる。


と言うか、誰にも妬まれる事なく大金持ちだ。

ふはははははははははは。


日本のように「有名税」などと言われて不愉快な目に遭う事もない。


有名税って何処のバカが言い出した言葉なのだろうか。

そりゃあ、政治家や芸能人のように自分から名前を売って有名になり、それによって多大なメリットが有る人になら税とか言いたくなるのも分かるけど、自分が望まないのに勝手に名前が広がって一円も儲からないのに有名税とか言われて不愉快なアレコレが押し寄せてくるなんて集団によるリンチと同じだ。単なるイジメだろう。

すまん・・愚痴ってしまった。


異世界に来ると日本の良いところもアラも良く見えるんだよ。



今日も大金を手に入れて魔法で収納し、ギルトから普通に出る。

今頃、クエスト終了も知らずに多くの冒険者が森の中をさまよっているだろう。

ご苦労様だ。


普通ならクエスト終了させた俺は恨まれたかもしれないし、「金をよこせ」と恐喝をされたかも知れない。

しかし、呪いのおかげで無視されるのだ。


「災い転じて福に成る」という言葉そのままだな。



ドゴォォォーン!、ゴゴォォォーン!


「きゃああ」 「何だ、何事だ」


何を食おうか考えながら歩いていると足元がゆれて重低音が響いてくる。


嫌な予感がする。

呪いを受けている俺にとって最悪な予感だ。


急ぎ高い建物の上に飛び乗って見渡すと西の城門から土煙が上がっている。

樹海がある方だ。


誰かがデカイ魔物をトレインしたまま逃げ帰ったのか?。

理解したところで全力で現場に向かう。

ふよふよと浮き上がって高い位置から様子をうかがう。


ありゃあ樹海で番張ってたサイクロプスだ。誰だよ拾ってきた奴は


この町の城壁は10メートルほどの高さを誇る。

奴は頭だけとはいえその上に出して街を見ている。

一つのデカイ目玉がグリグリ動く姿は不気味そのものだ。


城門の内側では既に巡回警備の兵や冒険者が集まっていた。

その中に拘束された数名の男たちが転がされている。

奴らがそうか・・町に魔物をトレインするのは理由に関わらず大罪。

もしもこのまま町に甚大な被害が出たら・・奴らは被害者から石を投げられて殺されるだろうな。

俺も現在進行形で多大な迷惑を受けているので考えが辛辣になる。


考えるのは後にして城壁を守らないと。


善意?、義務?、止してくれ。自分に対する被害を防ぐためだ。


城壁が壊れれば冒険者には強制的に修理の賦役が課せられる。

町の生命線だから無理もない。

重労働だし、非力な魔法使いも魔法での修理を強要される。

なのに食事は出るが日当は出ない。

おまけに俺にはギルドの評価さえ出ない。

踏んだり蹴ったりなのだ。


と言う訳で、サックリとサイクロプスを駆除した。


今回もギルドと騎士団の手柄になって俺は無視されるだろう。


だが、それこそが最高なのだ。


どんな功績だろうと無かった事にされるからこそ本気で力を使える。

あまりにも巨大な魔力と多種多様な魔法を持つ俺が平和に暮らせるのは呪いのおかげだ。

神話級の魔法を使っても、それによって大金を手に入れても、注目されず普通の人でいられる。


こんな素晴らしい事は無いだろう。


うん、若者だし、英雄願望も少しは有るんだけどね。ははははは・・はぁ。



さてと・・城壁の破損も軽微だし冒険者に召集はかからないだろう。


めでたし めでたし。




中断された食事をとるべく裏道を歩いていると怪しい集団と鉢合わせした。


モゾモゾと動く大きな袋を抱えている。


「やれやれ・・今度は誘拐犯かよ」


「くそっ、見られたか。消せ」


相手は5人。

おそらく裏社会のプロ。


「「「「「ぎゃぁぁぁ」」」」」


はい、終わり。


あと腐れ無いように相手の目を焼いて、弱い雷撃でスタンさせる。

どんなに残酷な事をしても誰も俺を恐れない。

ビバカース。


案の定、大きな袋の中身は女の子だった。

テンプレだねぇ。


当然、助けたことも無かった事にされる・・・はずだった。


少女は俺のことをジーーーッと見つめている。

あれっ。認識されてるの?


「なるほど。呪いを受けているのね。

聖女たる私の神々しさに膝を屈しないはずだわ」


何やら偉そうな態度で無視できないセリフをロリな子供がおっしゃる。


そう、助けたのはロリロリな幼女だ。


何故か俺の状態異常を見抜いていらっしゃる。


「あなた・・失礼な事を考えていらっしゃるわね。

本当なら不敬罪で牢屋行きですが、一応は助けていただいた事ですし、聖女の名のもとに許して差し上げますわ」


すごいメンドクサイ相手に見つかってしまった。


呪いの効果を無効化しているのは聖女だからか?ある意味さすがだ。


「感謝しなさい。お礼にその呪いも解除してあげますわよ」


ギャーーー


「あっ、こらっ。待ちなさい!!」


誰が待つか!



こうして、世界最強の魔法使いの平和な日常は終わりを迎えたのでした。


「こら聖女、付き纏うなぁーーっ」


「逃がしませんわ♡」


誰からも無視される彼は幼女に好かれた。


しかし、かれはロリコンでは無かった。


彼にとって幸福なのか不幸なのか物語の結末は誰も知らない。



おわり




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