手料理

成阿 悟

手料理

 大きく膨らんだスーパーのレジ袋を抱えてても、足どりは軽い。

 彼と出会って一週間。

 今日は名案を思いついた。

 いつも仕事で遅い彼のために、手料理を作ってあげようと。

 うきうきしながら、彼のマンションまでの道のりを歩く。

 道の脇に咲いた小さな黄色い花を一輪摘んだ。

 夕焼けもきれい。

 私の弾んだ心が空に映ってるみたい。

 合鍵で彼の部屋へ入ると、買ってきた食材を冷蔵庫に入れた。

 キッチンの棚を確かめると、主な調理道具は揃ってる。

 問題なく料理できそう。

 でも、まずは掃除からかな。

 男の人のひとり暮らしって、どうしてこんなに散らかるんだろ?

 そう思いながらも、掃除するのも楽しい。

「あっ」

 本棚の上のデジタルフォトフレームに元カノの写真を発見。

 今は私のカレシだと分かってても、やっぱり嫉妬しちゃう。

 元カノの写真を全部削除して、代わりに私の写真をいっぱい入れた。

 他にも元カノの痕跡のあるものは全部捨ててしまおう。

「よぉし、おそうじ完了!」

 ひとりで大げさに敬礼のポーズをとってみたりして。

 1LDKの部屋が、入ってきた時とは見違えるほど片付いた。

 手をきれいに洗って、持ってきたエプロンをつけると、いよいよ晩ご飯に取り掛かる。

 料理は得意。

 彼のことを想いながら手際よく調理していると、なんだか新婚さんみたいな気分になって、鼻歌がかってに出てきちゃう。

 それに合わせるように、包丁の音もリズミカルに響く。

 彼は歳に似合わず、昔ながらの和食が大好き。

 だんだんとダシのいい香りが部屋じゅうに広がっていく。

 今、私は恥ずかしいほどの笑顔になっているんだろう。

 人に見られたらと思うと、ちょっと頰が赤らむ。

 大好きな人のためにご飯を作るって、こんなに楽しいんだね。

 おそろいのかわいい食器も用意してきた。

 テーブルの上にふたり分の晩ご飯を綺麗に並べる。

 最後に、摘んできた花を小瓶に挿し、中央に置いた。

「うん、我ながら上出来」

 その時、玄関を開ける音がした。

 計算通り、ちょうどいいタイミングで彼が帰ってきたみたい。

「おかえりー」

 私は恥ずかしいくらいに、うきうきしながら出迎えた。

 彼はすごく驚いた表情で、私とテーブルの上に並んだ料理を交互に見てる。

「今日はタカトのためにご飯を作ってみたんだよ。玄米ご飯に、焼き魚と根菜の煮物、それに、ほうれん草のおひたしとナスのお味噌汁。全部タカトの大好物だよね?」

 彼はまだ部屋の入り口で固まったように立ってる。

「そんなに驚かせちゃったかな?」

 私は首をかしげて微笑む。

 そしてやっと彼が口を開いた。



「き、きみは……誰?」

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手料理 成阿 悟 @Naria_Satoru

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