第4話 信じて............る、よ?
「うーん。そーだなぁ............。えっと、ごめんね、
残念極まるお返事。
最初から期待値が高かったわけじゃないけど、やっぱりダメだってなると落ち込まざるを得ない。
っていうか、なんか怪しく思えてしまう。
僕が繊細すぎるだけなのかもしれないけど。
何を思って僕の眼を見つめてたの? そのしょんぼりした顔は何なの? いつものことだけどキスはよくてそれ以上はダメなのはどういうこと......?
他の男とヤッてしまった罪悪感で僕とはできません、みたいな顔に見えちゃうよ。違うとは思うんだけどさ!
くそぅ、エロマンガを読むのもっと控えておけば、こんな妄想に囚われなくて済んだのに......。
けどまぁ、とりあえずお怒りモードにはならなかったので一安心ではある。
彼女の言う通り、
「あ、あー。うん、そっかそっか。そうだよね。朱遠さん、今週もめっちゃ頑張ってたもんね......。僕の方こそごめんね、そんなしんどいときに無理させるようなこと言っちゃって......。気にしないでね! けど、あんまり無理しすぎて体壊さないでよ」
「ふふっ、いつも気遣ってくれてありがと♫ 大好きだよ、椿岐♡」
僕からの心配の言葉を聞いて、さっきまでの不安そうな表情を明るく一変させ甘えた声で愛を囁いてくれる朱遠さん。
口の端に軽くキスして、ついでにとばかりに腕に抱きついてDの称号を持つその胸部を押し付けてくれる。
朱遠さんはシャワーを浴びたあとは基本ナイトブラにしてるから、割とダイレクトに柔らかさが伝わってくる。
......いや、これ生殺しですねん。わざとやってるとしか思えませんのよ。
この、いつもは割とクールな朱遠さんが2人きりのときはデロデロに甘えてきてくれる感じ。
これもうゴールしちゃってもいいんだよね? 誘ってるんだよね!? と思ってしまうのも致し方ない。
でも昔、朱遠さんが誘ってくれてると勘違いして勢いに乗って襲ったら、めちゃくちゃ泣かれて本気で機嫌悪くなって、その後1週間は口もきいてくれなくなったことがあった。
つまり、朱遠さんのこのムーブは素。いやらしい気持ちゼロでやっていらゃっしゃる。
耐えてる僕は偉い。みんなに誇れるよこれ。
数年前まで一緒に遊びまくってた友達が今の僕を見たら、絶対びっくりすると思う。
研究室に配属されて忙しくなるまでは、ほぼほぼ毎日ナンパしたり外のサークルとか顔だして名前も知らない子とヤッたり、いつもお世話になってる馴染みのセフレと寝まくったりしてたくらいだし。
実際、既に数人には別人じゃないかって疑われたりもした。
惚れた弱みか。年上美人な姉さん女房の魅力には抗いがたい引力がある。
最初アプローチかけてくれたのは向こうの方だったんだけどなぁ。
でも結局、僕の方が惚れさせられて、もういい大人なんだけど真面目に告白するなんてこともしちゃったりして。
朱遠さんにお願いされたことなら大体は叶えてあげたい、気持ちを尊重してあげたい、なんて思わせられる。
さっきまで何か怪しいなとか思ってたけど、今はどうでもいいやって思わせられる。
そんな魔性を備えている。
うん、そうだよ。朱遠さんが何か相談してくれたときに、その信頼に応えてあげられれば、いいよね!
「僕も大好きだよ、朱遠さん。じゃあ、もう遅いし、そろそろ寝ちゃおっか」
「うん、そうだね!」
*****
結局あれからまた半月、レスは続いた。
たまーーーーーーーーーーーーーにお誘いしてみるものの、なんだかんだ毎回同じような悲しそうな表情からのキスで誤魔化されてばかり。
さすがの僕もいい加減怪しく感じてしまう心を抑えきれず、朱遠さんのスマホの中身を見せてもらったりした。
まぁ、朱遠さんも僕もお互いいつでもスマホ見ていいですよっていう立場をとってて、ロック解除の方法も共有しあってるしいつも不用心にしてるから盗み見るってわけじゃなくて、堂々と見せてもらったわけなんだけども。
けれども当たり前になんにも出てこなくて、自分が朱遠さんのことを信用できてないの丸出しの行為を晒しただけで終わってしまった。
結局、行為を断られる原因もわからず、というか、朱遠さんが言うようにソウイウコトに興味がないってだけだとしたら解決方法も見当たるはずもなく、無為になるとわかっていながら誘い続けるのにもそろそろ疲れてきた。
最近は一言誘わせてもらうのさえもかなり億劫になってきていた。学習性無力感というやつかもしれない。
誘いを断るときのあの悲しそうな顔。
朱遠さんにしてもわざわざ断るのも億劫だろうから、僕のヤル気が下がってるこの状況は彼女にとってはむしろ好都合なのかもしれない。
けど、僕にとってソウイウ行為は、快楽を感じるだけじゃなくて愛情を確かめ合う重要な行為だと思っているだけに、それがずっとないっていうことは悲しくもある。
そういう考えをそれとなく伝えてみようとするも、あまりにもガチで説明してしまうと、今後、朱遠さんが過剰に気を遣って嫌々付き合ってくれる、なんてことになったりしたら目も当てられない。
そんなのは愛情の相互確認じゃなくて獣欲の一方的な押し付けでしかない。
だから本気のトーンで聞くんじゃなくて、にこやかに、あくまで柔らかく、全然断ることができるんですよって雰囲気で尋ねるくらいしかできなかった。
今思えば、そういう相談をしたら気持ちがすれ違うんじゃないかって思ってたこと自体、僕も彼女のことを信頼しきれていなかったのかもしれないな。
その罰が下ったってことなのかもしれない。いやむしろ逆に天啓だったのかな?
しばらくしてから、僕は朱遠さんが研究室のボスに脅されて身体を差し出している事実を知った。
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