第15話 お父さん



 俺の両親は二人とも多忙なせいで、家にいたことがあまりない。

 父親は長期間の海外出張。

 母親の仕事は詳しく知らないが、俺が高校に入る少し前に俺のことを家に残してどこか出張に行ってくると言ったっきり帰ってきていない。


 そのおかげで好き勝手家の中に桜のことやヒデ太郎のことを呼んで遊ぶことができていたいので、よかったといえばよかったが……。  

 やはり両親がいない生活は寂しさがあった。


 そんな家を長い間開けていた両親の、父親。

 お父さんが昨日いきなり帰ってきた。


 俺に一言「長居するつもりはない」と言って、自室にこもってしまった。が、朝起きるとお父さんはさも当たり前のように椅子に座って朝ごはんを食べていた。


 新聞を開き、パンにを齧り付いている。

 俺はずっと扉の隙間からその様子を観察していた。のだが少ししてこれは息子としてどうかと思い、堂々とお父さんが座っている対面の椅子に腰を下ろした。


 息子と久しぶりの朝なのに、言葉の一つもかけてくれない。


 お父さんが話しかけようとせず、ずっと新聞を眺めていそうだったので俺から話しかけることにした。


「お父さん。今回の海外出張はどこに行ってたの?」


「アメリカと中国を行き来していた」


 会話が膨らむことはなく、そこで終わった。


 俺はお父さんと仲良くなりたい。そう思ってもいるが、実はお母さんへどうやって告白したのかを聞きたいので喋りかけた。

 ……だがどうやら、この感じが続くとそれを聞き出すのは至難の業らしい。

  

 俺が黙り込んでいると、お父さんはいつの間にか朝食のパンを食べ終え椅子から立ち上がってしまった。

 

「ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど……」


「――なんだ?」


 俺の言葉に答えてくれないと思っていたが、お父さんはすぐ椅子に座り直してくれた。

 

「実は、少し前から好きな人ができて」


「ほう。恋愛相談というやつだな」


 すごい食い気味……。


「うん。もしお父さんが俺の話を聞くのが嫌なら全然聞かなくてもいいんだけど」


「何を言っているんだ。息子が初めてしてくれた父親への恋愛相談を嫌なんてふうに思う親なんていないさ」

 

 ずっとどこかよそよそしかったけど、別にお父さんは俺のことが嫌いじゃなかったんだ。

 

 俺はそんなふうに思いながら、父親として風格のあるお父さんにロマンティックな告白の仕方がなにかないかと相談した。


 全て話し終えるとお父さんは「私も同じような年頃にな……」と、どこか昔を懐かしむような声で過去を語り始めた。


「お母さんに告白したものだ。正直言って、あれは今でも忘れられないくらい苦い思い出になってる。……だかそれと同時に甘酸っぱい思い出にもなってるのかもしれないがね」


 お父さんとお母さんの間で何があったのかは、二人だけの思い出で秘密なんだろう。 

 俺にもこういった告白の思い出を作ることができるのだろうか。

 プレッシャーや不安が積み重なる。


「そんなに気に負う必要はないと思うぞ」


 俺のことを見かねた腕を組んだお父さんが優しい言葉をかけてくれた。


「告白というのは自分の中での相手の気持が爆発してするものだと私は思うんだ。だから、むりにロマンティックにしようとせずに自分の素を相手にぶつけたらいいんじゃないか? もちろんロマンティックな告白そのものを否定するつもりはないのだがな」


「……そうなんだ」


「あぁ、そうだとも。告白と言ってもその種類は無限大なのだから、二人にあった最高のものにするといいと思うぞ」


 お父さんは真剣に俺のことを思って考えてくれた。

 こんなことをしてくれたのはいつぶりだろう……。いや、いつも俺のことを考えているからこそこうやってアドバイスしてくれているんだろう。

 

 海外出張が多いせいでというのもあるが、これまで俺の方から距離を取りすぎていたのかもしれない。


「さぁ、コーヒーでも飲んで男同士の恋バナと洒落込もうじゃないか」


 お父さんは俺が距離を詰めようとしていることに気がついたのか、そう言ってコーヒーを入れ始めた。

 昔から俺に気を使ってくれていたと考えると、申し訳ない気持ちで一杯だ。

 だから今日は、俺の口から好きな人のことをお父さんに紹介しよう。

 お父さんの知らない俺を語りつくそう。


「ちょっと長くなるかもしれないよ?」


「臨むところだ」

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女友達にふざけて催眠術をかけられ、目が覚めたら完全に一線を越えた関係になってたんだが でずな @Dezuna

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