第14話 朝比奈家にお邪魔します



 今日は桜の家でデートすることになっている。

 おうちデートというべきなのか。 

 俺は人を自分の家に入れることは度々あったが、こうやって異性の家に入るのは初めてだ。

 デートと言ってもただ桜の家でゆったりするだけなのに変に緊張してしまう。

 人差し指をぷるぷるとさせながらインターホンを押した。

 扉を開けてきたのは桜のお母さんだった。


「あらあらあら。來也くんじゃない。いらっしゃぁ〜い。今日は桜とおうちデートらしいわね。あっ、今私ここにいるけどあともう少ししたらいなくなるから安心して!」


 桜のお母さんの手厚い歓迎をもらい反応に困っていると、奥に見える階段の方から桜が手招きしているのが見えた。


 助かった……。


「あ、はい。ではおじゃまします」


「はぁ〜い」


「こっち来て」


 桜に先導されるがまま、俺は桜の自室に到着した。

 

 真っ白な壁紙に、ピンク色のベット、ピンク色のテーブル。

 女の子らしい部屋だ。部屋の中にはあまりものがなく、スッキリとしている。


「じゃあ私、飲み物とか持ってくるから適当に寛いでて〜」


「おう」



 桜が部屋を出ていった。

 もうこんなの、部屋の中を物色するチャンスでしかない。……とは思うが、さすがの俺も紳士なので空き巣のように物色はしない。ただ本棚にある漫画を見てみたり――


「へぇ〜。少女漫画ってやつか」


 普段見ない漫画なので新鮮だ。


 少女漫画を見るということは、桜もトキメキというものに飢えているんだろうな。

 また告白のハードルが一つ上がっちゃったんだけど。


 俺が少女漫画に夢中になっていると、桜が部屋に戻っていきた。


「お。その漫画面白いでしょ。私のお気に入りなんだよね。身分差ラブコメだと思ったら……っていう感じで見てて飽きないんだよ」


「ほうほう」


 このまま漫画を見ていたい気持ちもあったが、今日は桜の家に遊びに来たのではなくおうちデートしにきたのだ。漫画を閉じて、持ってきてくれた麦茶をもらう。


「ありがと」


 キンキンに冷えてやがる! と言いそうになったが、桜がなにか喋りたそうにしているのを見て余計なことは言うべきじゃないなと思った。


「どうしたの?」


「い、いやぁ〜……。來也が私がいつも過ごしてる部屋に来てちょっと緊張しちゃって」


 どうやら桜はらしくもなく緊張しているらしい。

 俺もここに来て緊張しているんだけれども。


「まぁ気楽に行こうよ。緊張なんて、そんなのしてたらあっという間に時間過ぎていっちゃうよ?」


「そうだね」


 桜はそう言うと、いつも俺の家にいるときの定位置であるあぐらの上に座ってきた。


「やっぱりここは落ち着く……」


 どちらかというと俺は落ち着かないんだけど。

 いつもこの位置にいる時はゲームをしているので特に思わなかったが、このまま話題がないと邪な気持ちが浮かんできそう。


「ところで、桜って小さい頃どんな感じだったの?」


「ん〜。そうだね……。別に今とあんまりかわらないかな? 小学生の時はちょっと好奇心旺盛で先生によく叱られてた気がするけど……」


「なんか意外」


「そう? じゃあ來也は小学生の時どんな感じだったの?」


「え。まぁどちらかというと静かな方だったかな。……あの頃から、ゲームとかばっかりしてたし」


「來也のほうが意外なんだけど」


「成長してきたってことなのかな」


「そうだね。多分私たち、これからも成長するけどお互い嫌いにならないようにしないとね」


「嫌いになんてならないでしょ?」


「もちろん」


 桜は自信満々にそう言うと突然あぐらの上から立ち上がり、棚からアルバムを取り出した。


「これ、小さい頃の私なんだけど……」


 見せてきたアルバムの中には、今の桜を小さくしたような妹さんに瓜二つの写真がびっしりあった。


 無邪気に遊んでいる姿だったり、美味しそうな顔だったり。

 俺が知らない桜の顔ばかりだ。


「ちなみに小学生の時の一番いい感じの写真はこれ」

 

 桜が指を差してきたのは、顔を泥で汚れた姿の写真だった。


「小学生の時なんて本当、なにをしても楽しかった気がする。たしかこの写真は家族で旅行に行ったとき、私が泥の中に転んじゃったときの写真だね。……どう?」


「かなり良い」


「そ、そうかな。えへへ……。來也って昔の写真とか画像ってないの? 見てみたい!」


「どうだろ。俺はこういうアルバムなんてないし、ましてや小中学校の卒業アルバムは捨てちゃったんだよね」


「そっか。小さい頃の來也も見てみたかったんだけど」


 俺は桜に小さい頃の画像を見せて上げたいと思い、スマホから保存した画像を遡っていると、それらしきものが見つかった。


「一応小さい頃の画像あったけど」


「え? 本当? 見せて見せて!」


「スマホを初めて持ったときに自撮りしたやつだからちょっとブレてるんだけど……」

  

 食いつくように見られると恥ずかしい。


「へぇ〜。これが小学生の時の來也なんだ。……なんかもともとかっこよくてあんまり変わってないね」


「それを言ったら桜も可愛くてあんまり変わってないじゃん」


 その後はお互いが知ることのない出会う以前の話などをして、おうちデートは幕を閉じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る