第13話 誕生日プレゼント



 今日は桜の誕生日だ。

 そんな日に俺はショッピングモールで、なにが桜の誕生日プレゼントにふさわしいのか物色している。ちなみに小一時間周っているが全くと言っていいほど、プレゼントは決まってない。


 それもこれも少し前から高くなっている、告白のハードルの高さが原因になっている。


 もちろん俺は誕生日というベタなタイミングで桜に告白をするつもりはないが、誕生日プレゼントといったら告白の次に大切なことだと思っている。


「告白、か」


 俺の頭の中でどういう告白にするべきなのか、そんな悩みがずっと渦巻いている。


 ロマンティックな雰囲気でいざ告白……といきたいのだが、肝心のロマンティックな雰囲気というのが思いついていない。


「はぁ」

  

「そんならしくもないため息なんてついちゃって、どうしたの?」

 

 ショッピングモールのベンチに座っていると、聞き覚えのある女性に声をかけられた。


「よっ。私たちが二人っていうのは初めてじゃない?」

 

「なんだ朱莉か……」


「なんだとはなによ。そりゃあ突然話しかけてきた女の子が桜じゃなくて? 嫌かもしれないけど? なんだってなによ!」


 朱莉がいきなり声を上げてきたので、前を通り過ぎていく人たちから変な視線を向けられた。


「ごめんごめん。そういうつもりで言ったわけじゃないから落ち着いてくれない? ほら、俺たちさっきから変な視線で見られてるでしょ?」


 俺が小声でそう伝えると朱莉は自然にすぐ気づき「あ〜あ。勘違いしてたぁ〜」と、わかりやすく大きな声で隣りに座ってきた。


「それで、來也くんはこんな場所で何やってるの?」


 ここは同じ女子なので桜の誕生日プレゼントの意見を聞くというのもありなんじゃ……。

 いや、それは俺が上げたプレゼントではなくなってしまうかもしれないのでやめておこう。


「ちょっとここに用事があってね。朱莉こそここで何してるの?」


「ん〜とね……。あれ? 私ここに何しに来てたんだっけ?」


「俺に聞かれても知らないけど」


「あ、思い出した。お母さんにおつかいして来てって言われてて……やばい! もうすぐタイムセール始まるから先に失礼するね!」


「お、おう。頑張って」


「うん。來也くんも桜へのいい誕生日プレゼント、見つかるといいねぇ〜!」

 

「……なんだ。気づいてたのかよ」


 嵐のようなすべてを見抜いていた朱莉の襲撃を受けたが、桜への誕生日プレゼント探しを再開した。

  

 女性にプレゼントなんてしたことがないので、こういうときは無難にネックレスなどのアクセサリー系がいいのたろうか?


「うぅ~ん」


 でも、桜がそれをもらって喜んでくれなかったら最高の誕生日プレゼントとは言えない。


 桜は俺のことが好きなのは知っている。 

 やっぱり誕生日なので過去に残しておける物がいい。


 だとしたらやっぱり無難なネックレスなどのアクセサリー系で……でも、そうしたら喜んでくれないかもしれないし……。

 もうこのままじゃ無限ループに入ってしまう。


「あ」


 意外と簡単なことだった。

 要は最高の誕生日プレゼントにするためには、無難なものを攻めるんじゃなくて、桜に関わりがあるものにすればいいんだ。


 スッと小さな穴に糸を通すことができたような、気持ちいい感覚に陥り、なにが誕生日プレゼントにふさわしいのかすぐわかった。


 時は少し経ち、夕方。 

 

「えっ!? か、か、か、勝ったんだけど!? 手、抜いてないよね?」


「もちろん。完全に負かされたよ。桜うまくなったね」


「えへへ。そんな褒めたって何も出てこないんだぞっ!」


 桜はよほど嬉しかったのか、俺のあぐらの上で体をくねくねさせている。


 その真逆で俺はいつも圧勝だったはずが、初めて桜にゲームで負けて本気で悔しい。誕生日だったので手を抜いていたとか、そういうわけじゃないので余計悔しい。

 完全に実力で負かされてしまった。


 誕生日プレゼントは帰り際に渡すつもりだったが、今が絶好のタイミングと言うやつなんだろう。


 ベットの下に隠しておいた小さな小包を、あぐらの上に座っていると桜の前に出した。


「誕生日おめでとう」


 誕生日プレゼントの小包をあげようとしたのだが桜は無言で受け取るような素振りを見せなかった。

 その理由は――    


「こ、こ、こ、これって誕プレってやつじゃない!?」


 誕生日プレゼントをもらうことができ、心の底から喜んでいたからだ。


「ねぇねぇ。これってもう開けてみていいの?」


 桜は猛スピードで小包からプレゼントが入っている、手のひらサイズの小さな箱を取り出してうきうきで聞いてきた。

 

「いいよ。気に入ってくれると嬉しいけど……」


「開けちゃいます」


 ぱかっと何の躊躇いもなく箱を開けた桜だったが、中に入っていたものを見てピタリと体の動きが止まった。  


 そう、俺が誕生日プレゼントとして選んだのは。他の高い指輪と比べたら断然安いが、俺の出すことができるお金を全部使って買った。

 

「こ、こ、れってもしかして……婚約指輪ですか?」


 桜は突然誕生日プレゼントで指輪を出され、良くも悪くも勘違いをしてしまった。


 少し言葉足らずだったかも。


「さすがに婚約指輪じゃないからね? ただ、一つのアクセサリーとして使ってほしいなって思って買ったんだ」


「ほへ〜。來也はこういうアクセサリー系は無難だから選ばなそうなのに、なんか意外」


「あはは。たしかに無難だなって思って避けてたけど、指輪ほどお互いのことを感じられるものはないじゃん?」


 俺は右手の薬指に嵌めている同じ指輪を見せた。

 それを見た桜は目を伏せ、くるりと体を回転させ、正面から俺に抱きついてきた。


「ありがとう。來也のおかげで最高の誕生日だよ」

 

「喜んでもらえたのならよかったよ」


 抱きついてくるなんて……悩んで買ったかいがあったものだ。

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